High-performance notebook "ThinkPad X1 Carbon Gen 9" with a revamped aspect ratio of 16:10
「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです【この記事に関する別の画像を見る】 「ThinkPad X1 Carbon Gen 9」は、2021年に発売された同製品の最新モデルだ。毎年新モデルが登場するこの製品、筆者はこれまで、2016年、そして2019年に、前の世代のThinkPad X1 Carbonをそれぞれ購入しており、今回は3代目のThinkPad X1 Carbonということになる。購入して約5カ月使用したので、レポートをお届けする。 なお本稿執筆中に、後継となる第10世代モデル(ThinkPad X1 Carbon Gen 10)が発表されている。現時点ではまだ国内では発売されていないが、発表済みの製品の中で本製品が最新モデルというわけではない点は、予めご了承いただきたい。■ これまでメインだった2019年モデルと入れ替え 筆者が3代にもわたってThinkPad X1 Carbonをメインマシンとして使用しているのは、据置でもモバイルでも快適に使える、そのオールマイティ性を高く評価しているからだ。重量だけにフォーカスすれば本製品より軽量な製品は昨今いくらでもあるが、14型で、かつ重量が1kgちょっと(約1.13kg~)というバランスの製品はそうそうない。 特に筆者の場合、宿泊先のホテルで腰を据えて作業する機会が多いため、画面サイズが大きいに越したことはなく、13.3型以下は候補に入ってこない(一方でバッテリ持続時間はそれほど求めていない)。こうした条件下では、本製品は候補の最右翼に挙げられる。また20年来の付き合いになる、トラックポイントを搭載しているのも理由として大きい。 唯一対抗馬になり得そうなのは、同じレノボの「ThinkPad X1 Yoga」だが、2in1スタイルは筆者にとって特に必須でないこと、また本製品のほうがわずかながら軽く、さらに安価ということで、やはり選んでいくと本製品に落ち着くというのが現在の状況だ。 さて筆者がこれまでメインで使っていた2019年モデル(世代でいうとGen 7だが、本稿では同社の表記に倣って2019年モデルと呼称する)は、CPUがCore i7-8565U(1.80GHz)、メモリも16GBと必要十分で、Windows 11へのアップデートも問題なく行なえた。 ハード的に何らかの不具合があったわけでもなく、メイン機として使い続けても支障はなかったのだが、乗り換えたのには大きく分けて2つの理由がある。最大のきっかけは、これまでサブ機として使っていた、ThinkPad X1 Carbonの2016年モデルを引退させたことだ。 筆者はメイン以外に代替となるサブ機を用意しておき、メイン機は外付ディスプレイやキーボード接続してほぼデスクトップPCと同じ使い方をし、サブ機はモバイルで持ち出すという2台体制で運用している。万一メイン機にトラブルがあっても、サブ機でひととおりの仕事をこなせるという予防措置だ。 このサブ機はそれまでのメイン機が玉突きで降格する形になっており、2016年モデルもかつてはメインで使っていたのだが、ここ1~2年はUSB PD非対応のせいで充電環境の統一にあたってネックになっていた上、今回Windows 11に対応しないことが判明したため、手放すことを決定した。それゆえメイン機にあたるモデルが必要になったというわけだ。 もう1つは、Windows 11を検証するための、プレーンな環境が必要だったことだ。これまで使っていた2019年モデルはすでにさまざまなアプリをインストールし、設定も細かくカスタマイズしている。この環境でWindows 11にアップデートしても、それがWindows 11本来の挙動なのかが判別できない。 かといって一旦初期化してやり直すとなると、今度はカスタマイズした設定が分からなくなってしまう。それならば現行環境をマシンごと残したまま、プレーンな状態でWindows 11を導入可能なメイン機を新規調達し、2019年モデルを玉突きでサブ機へと降格させるのがベターだと判断したというわけだ。■ アスペクト比の変更により筐体の横幅などにも変化が というわけで前のモデルに不満があったわけでもなく、あくまで運用上の理由による乗り換えとなったわけだが、直系の後継機を選んだことで、よい点はもちろん悪い点も実感することになった。本稿ではそうした点を紹介する。製品の世代としては、間にある「Gen 8」が抜けた状態での比較となるので、ご容赦いただきたい。 さて今回の「Gen 9」の最大の特徴として、画面のアスペクト比が変更になり、画面の高さに余裕ができたことが挙げられる。従来モデルはアスペクト比が16:9ということで、ビジネスユースではやや天地が窮屈だったが、今回のモデルはアスペクト比が16:10となり、天地サイズに余裕ができている。 これはSurfaceなどのアスペクト比3:2には及ばないものの、実際に使ってみるとWebの閲覧にしても、ExcelやGoogleスプレッドシートを表示するにしても、明らかに余裕がある。また従来のモデルで目立っていた画面のベゼルの下側がスリムになっているので、外見上のバランスもよくなっている。 ちなみに画面サイズが14型のままで縦に長くなったことで、逆に画面の横幅は短くなり、その影響で筐体の横幅が若干狭くなっている。実測値で言うと、従来が322mmあったのが、本製品は314mmと、1cm弱縮んでいる。バッグなどに収納しやすくなったことから、よりモバイルユース向けに進化したと言えるだろう。 側面のポート類は大きく変わっていない。従来備わっていた有線LAN対応の外部アダプタ用ポートが廃止になり、それに含まれていたUSB Type-Cポートが独立したくらいで、トータルでは差し引きゼロ。あとは配置が変わっただけだ。 どちらかというと目立つのが、右側面にあった排気口がなくなり、背面に移動したことだ。従来モデルは長時間使っていると右側面から排気が始まり、マウスを握っている手に熱風が当たる問題があったが、本製品ではその心配はなくなっている。狭いテーブルで作業をする場合にはありがたい。■ 筐体サイズの横幅が詰められ、キーボードの一部キーにも影響が 続いてキーボードまわりについて見ていこう。まずキー配置については、注意しなくてはいけない点がある。それはほぼすべてのキーが均等な幅だった従来と異なり、このGen 9は向かって右側、Enterキーまわりが若干窮屈になっていることだ。 写真を見てもらえれば分かると思うが、Enterキーの左側、かなキーでいうと「゛」「゜」、さらにその下の「け」、「む」が、幅が狭くなっている。その1つ下「る」、「め」、「ろ」は変化がないが、その代わりに右側にあるShiftキーの幅が大幅に切り詰められている。 これは前述の、筐体の横幅が短くなった影響とみられる。キー幅が均等なことが売りだったThinkPad X1 Carbonにとってはこれは大きな変化だ。実際のところ、英語キーボードには影響はなく、日本語キーボードに限った変化のようなのだが、あまり好ましくない方向に変化したことは間違いなく、購入にあたっては注意が必要だ。 一方のプラス面は、キーの表面がマット調になったことだ。従来は手の脂が目立ちやすかったが、本製品は若干のざらざら感を残したマットの仕上がりで、使っていても手の脂は目立たず、快適に使える。 両製品を同じ期間使ったわけではないので、長期間使った時の変化までは現時点ではわからないが、いつまでも使用感が少なく、新品と変わらないように見えるのはプラスだ。 一方で、トラックパッドの左右ボタンの中央にあるボタンは、悪い意味で変化がなく、そのままの仕様が維持されている。 この中央ボタンは、かつては両側にある左右ボタンよりわずかに背が高いことによって、左右ボタンとの違いを指先で判別できたのだが、世代を重ねるたびに高さが等しくなっていき、2019年モデルの時点ではほぼフラットな高さになってしまっている。本製品でもこの特徴は変わってない。 この中央ボタンには、左右ボタンと判別するための凹凸のパターンが施されているが、ほぼ指先で触れない上方にしか施されていないため、ほとんど役に立たない。操作していてこの中央ボタンと間違えて左クリックボタンを押した経験があるユーザーは、筆者だけでははないはずだ。 もっともこれについては、トラックポイントというポインティングデバイスを残してくれているだけ感謝すべきという見方もあり、なかなかツッコミにくいのは事実だ。上にざらつきがあるシールを貼るなど、ユーザーの側で判別しやすくなる工夫をしたほうがよいのかもしれない。■ 指紋認証は使い勝手の時点でやや退化? キーボード手前のトラックパッドについては、横幅が大きくなったことで操作性が向上している。筆者はキーボード中央にある赤ポッチことトラックポイントを常用している関係で、こちらのトラックパッドはオフにしているのだが、併用している人にとっては便利だろう。 一方で気になるのは指紋認証だ。指紋認証センサーは、電源ボタンと一体化する形で、キーボードの上部、これまでスピーカーがあったエリアへと移動している。若干遠くなって押しづらくなったとはいえ、そもそも起動時およびロック解除時にしか使わないものを、そこまで近くに配置する必要はないので、この点は許容範囲だ。 ただし認識率はイマイチで、これまで使っていた2019年モデルのようにほぼ100パーセント反応してくれることはなく、けっこうな割合でやり直さなくてはいけない。配置は悪くなくとも、使い勝手の部分で退化したように見えるのは残念だ。 なおその電源ボタンの位置にかつてあったスピーカーは、キーボードの横という、音を聴くのにはより自然な配置へと変更されている。それでいてキーボード横の幅が広がっていないのは秀逸だ。 ただ、これをキーボード横ではなく別の場所に移動させれば、キーボード面をより広く取ることができ、結果的に一部のキー幅を縮小する必要もなかったのでは? と思わなくもない。ともあれ、設計上はさまざまな葛藤があったことを感じさせる配置だ。■ 若干疑問な箇所はあるもののトータルではプラス 以上のように、これまでの進化に比べると、若干「おやっ」と気になるところがある、というのが筆者の印象だ。アスペクト比の変更は、ユーザー(少なくとも筆者)のニーズを満たしており、これだけでお釣りが来るレベルなのだが、一部キー幅が狭くなったように退化している点もある。これまでのモデルチェンジではなかった傾向だ。 とはいえすでにスタイルが完成された本製品では、トータルで見るとプラスだというのが筆者の見方だ。これ以外に、バッテリ駆動時間が約26時間に伸びるなど、電源が確保できない場所で使うのに魅力的な進化もある。個人的には顔認証の認識率がもう少し改善されることを、次期モデルないしはアップデートに期待したい。
PC Watch,山口 真弘