Elucidating the Mystery of Red Pigment Production in Safflower
~ベニバナの赤色色素カルタミンの合成酵素を同定、最適な栽培環境確立へ~
東洋インキSCホールディングス 東洋インキSCホールディングス株式会社(代表取締役社長 髙島 悟、東京都中央区)とトーヨーケム株式会社(代表取締役社長 町田 敏則、東京都中央区)は、東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻応用生命化学講座の研究グループ(和氣 駿之 助教ら)、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(青木 裕一 助教)との共同研究により、ベニバナの赤色色素カルタミンの生合成の最終段階を司る酵素(カルタミン合成酵素)の遺伝子を同定しました。トーヨーケムは、ベニバナ色素の国内トップメーカーとして、独自の抽出技術を用いて植物由来天然色素「リオフレッシュ® カラー」や可食性印刷インキなどの製造販売を行ってまいりました。ベニバナ色素は、紅花を約90日間栽培し、花弁を手作業で摘み取り抽出された赤色と黄色の色素で、食品や口紅などに幅広く使用されています。この度、紅花の植物内部で色素が合成される代謝メカニズムを解明するため、共同研究により赤色色素であるカルタミンの生合成メカニズムの解析を進めるに至りました。本研究において、トーヨーケムは北海道栗山町に管理する紅花圃場および自社栽培の紅花花弁を提供するとともに、白、黄、オレンジなどの各種ベニバナ品種の生育状態の観察を行い、東洋インキSCホールディングス生産技術研究所は、ベニバナ内部の中間代謝物の分離・精製・解析のサポートを行いました。今回の共同研究により、ベニバナの最終代謝物である黄色中間代謝物を赤色色素カルタミンに変化させる合成酵素の遺伝子が世界で初めて同定されました。伝統的な紅(べに)の製造プロセスもカルタミンやカルタミン合成酵素の特性に基づいて合理的に説明できます。本研究結果に基づいて、より効率的に赤色色素を得る栽培方法の確立を進めるほか、現在解析を進めているすべての中間代謝物の生合成メカニズムの解明により、紅花生育環境を最適化し、さらなる効率的なベニバナ赤色色素の抽出技術に展開します。東洋インキグループは、色材のリーディングカンパニーとして天然色素の効率的な生産システムを構築し、工業的色材への可能性を開くことで持続可能な社会の実現に貢献してまいります。【紅花とは】紅花のフラボノイド色素カルタミンは、古代エジプトの時代(B.C.2500)から天然赤色色素として利用され、日本でも飛鳥時代以降、「紅(べに)」という呼称とともに着物染料、口紅、食用色素、漢方薬など多方面で利用されてきました。とりわけ、山形県の最上川流域(出羽最上)で栽培される紅花は紅の原料としてきわめて上質で、江戸時代から「最上紅花」として重宝されてきました。こうしたことから紅花は山形県の県花として親しまれ、農林水産大臣が認定する「日本農業遺産」にも指定されています。紅花はまた、「末摘花(すえつむはな)」の別名で源氏物語にも登場するなど、文化的な側面でも関心が高い植物です。【カルタミン合成酵素の遺伝子同定について】カルタミンの化学構造は複雑であり、その構造決定や生合成機構の解明は、世界的にも、また日本でも、古くから数多くの科学者の興味を引いてきました。とりわけカルタミンの構造研究は100年以上もの長きにわたる歴史をもち、その研究潮流のなかには、日本初の女子大学生として東北大学(当時、東北帝国大学)に入学しその後日本の女性化学者第一号として活躍した黒田チカ博士も名を連ねています。そしてカルタミンの立体化学も含めた化学構造が最終的に確認されたのは比較的最近(2019年)のことです。カルタミンはフラボノイドの1種であり、他の植物には見られないカルコン誘導体「キノカルコン」からベニバナ特有の多数の修飾反応を受けることにより生成すると推定されます。1995-2000年頃にはカルタミンの直接的な前駆体としてプレカルタミンが同定されました。しかしながら、カルコンから出発してどのような酵素がどのような順序でカルタミンの生合成に関わるのか、酵素遺伝子の同定も含めて現在も何一つ明らかになっていないのが現状です。近年、遺伝子・タンパク質解析技術の進展に伴って、そうした最新の解析手法を用いてカルタミンの生合成経路を解明しようとする試みが活発化しており、生合成研究の競争は世界的に激化しています。そうしたなかで、研究グループは、カルタミン生合成の最終段階の反応を司る「カルタミン合成酵素」の遺伝子を世界で初めて同定し、ベニバナの赤色化を司る酵素の実体を明らかにしました。本研究によって、カルタミン合成酵素は、植物に広く存在するペルオキシダーゼの仲間であることが明らかにされました。しかしながらユニークなことに、カルタミン合成酵素反応では、他のペルオキシダーゼ反応とは異なり、電子受容体として過酸化水素ではなく酸素分子が利用されます。研究グループは、明らかにされたカルタミン合成酵素の特性に基づいて、ベニバナの花弁の赤色化や伝統的な紅の製造のプロセスを合理的に説明できるとしています。 赤色色素カルタミンの化学構造カルタミンの生合成に必要な遺伝子ツールの1つが明らかになりました。こうしたことの積み重ねによってカルタミン生合成経路の酵素遺伝子がすべて解明され、取得されれば、この複雑な構造の有用化合物を、代替生物を用いていつでも自在に合成できることが期待されます。この研究成果は植物科学の国際誌“Plant & Cell Physiology”に速報として出版され、また9月11日にオンラインで開催される日本植物バイオテクノロジー学会(http://conference.wdc-jp.com/jspb/conf2020/)においても口頭で講演がなされます。 タイトル:Identification of the Genes Coding for Carthamin Synthase, Peroxidase Homologs that Catalyze the Final Enzymatic Step of Red Pigmentation in Safflower (Carthamus tinctorius L.)著者:Toshiyuki Waki, Miho Terashita, Naoki Fujita, Keishi Fukuda, Mikiya Kato, Takashi Negishi, Hiromi Uchida, Yuichi Aoki, Seiji Takahashi, Toru Nakayama掲載誌 :Plant and Cell PhysiologyURL :https://doi.org/10.1093/pcp/pcab122 ・トーヨーケム株式会社 ベニバナ赤色素 ウェブサイト:https://www.toyo-chem.com/ja/products/natural/liofleshcolor/carthamin.html・東北大学 中山研究室(バイオ工学専攻応用生命化学講座)ウェブサイト:http://www.che.tohoku.ac.jp/~seika/・東北メディカル・メガバンク機構 ウェブサイト:https://www.megabank.tohoku.ac.jp/このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります。
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