日本の妊産婦死亡率の現状とは 世界から見た状況とその理由と対策
妊産婦死亡率とは、妊娠や出産を機に亡くなった人の割合を示す数値だ。日本の妊産婦死亡率について、具体的な数値とともに、世界から見た現状を解説する。なぜ妊産婦が亡くなるのか、具体的な理由や対策についても学んでいこう。
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2021.11.30妊産婦死亡率とは 定義と求め方
妊産婦死亡率とは、「妊娠中または妊娠終了後満42日未満の女性の死亡で、妊娠の期間および部位には関係しないが、妊娠もしくはその管理に関連したまたはそれらによって悪化したすべての原因」によって死亡した妊産婦の割合を示す数値である。妊産婦死亡率を求める数式は、以下のとおりである。妊産婦死亡率=(年間の妊産婦死亡数÷年間出産数)×100,000年間出産数は、「出生数+死産数」または「年間出生数」で求められる数値だ。ただし「年間の妊産婦死亡数」には、不慮または偶発の原因によって死亡した人の数は含まれない。特定の国や地域、および世界全体における、妊産婦と子どもたちを取り巻く環境について調査する目的で、毎年調査されている。(※1)
日本の妊産婦死亡率の現状
ユニセフが発表する「世界子ども白書2019」によると、2017年の日本の妊産婦死亡者数は44人。妊産婦死亡率は「5」であった。亡くなった妊産婦の数は16,700人中1人という計算になり、世界トップレベルの低さと言えるだろう。(※2)とはいえ、日本においてもずっと妊産婦死亡率が低かったわけではない。厚生労働省が発表しているデータによると、1900年代当初の妊産婦死亡率は出産10万件あたり400前後であった。その後、医療技術の発達とともに、死亡率は大幅に低下していく。1980年代の妊産婦死亡率は約15前後。現在の水準に近付いたのは、1990年代後半からと言えるだろう。(※3)2017年時点で日本と妊産婦死亡率が同等の国は、デンマークやアイルランド、スイスなど。しかし依然として、妊産婦死亡率が500を超えるような国も珍しくないという実情がある。(※4)
世界の妊産婦死亡率の状況は
ここからは、世界の妊産婦死亡率に注目してみよう。妊産婦死亡率が高い国、低い国には、それぞれどのような特徴があるのだろうか。
国名 | 妊産婦死亡率 |
南スーダン | 1,150 |
チャド | 1,140 |
シエラレオネ | 1,120 |
ナイジェリア | 917 |
ソマリア | 829 |
モーリタニア | 766 |
ギニアビサウ | 667 |
リベリア | 661 |
アフガニスタン | 638 |
コートジボワール | 617 |
ガンビア | 597 |
ギニア | 576 |
マリ | 562 |
ブルンジ | 548 |
レソト | 544 |
カメルーン | 529 |
タンザニア | 524 |
ニジェール | 509 |
エリトリア | 480 |
ハイチ | 480 |
コンゴ民主共和国 | 473 |
国名 | 妊産婦死亡率 |
---|---|
ベラルーシ | 2 |
イタリア | 2 |
ノルウェー | 2 |
ポーランド | 2 |
チェコ | 3 |
フィンランド | 3 |
ギリシャ | 3 |
イスラエル | 3 |
アラブ首長国連邦 | 3 |
デンマーク | 4 |
アイスランド | 4 |
スペイン | 4 |
スウェーデン | 4 |
オーストリア | 5 |
ベルギー | 5 |
アイルランド | 5 |
日本 | 5 |
ルクセンブルグ | 5 |
オランダ | 5 |
スロバキア | 5 |
スイス | 5 |
地域別に見ると、ヨーロッパのなかでも、特に西ヨーロッパに多いことがわかる。妊産婦死亡率が低い国は、経済的にも発展しており、政治情勢的にも安定している国が多い。医療も発達しており、国民全員が必要な場面で必要な医療を受けられる点が、大きな特徴と言えるだろう。(※5)妊産婦死亡率が高い国は、いわゆる発展途上国に多く見られる。WHOの発表によると、妊産婦死亡の94%は低・中所得国で生じているというデータもある。死亡率が高い要因としては、医療が発達していない点のほか、低年齢での妊娠・出産など、高リスク妊婦が多いという事情も関連しているだろう。(※6)
妊産婦死亡の理由と求められる対策
世界の妊産婦死亡率の現状を知ったところで、気になるのがその理由である。日本産婦人科医会が発表した「妊産婦死亡報告事業 2019」によると、日本における妊産婦死亡の主な理由と割合は以下のとおりである。(※7)産科危機的出血19%脳出血 14%心肺虚脱型羊水塞栓 11%心・大血管 9%感染症 9%ランキング上位3つについて、それぞれの詳しい理由は以下で解説しよう。
妊娠や出産に関わる多量出血が原因で、死に至るケースである。気になる出血の原因としては、子宮型羊水塞栓症や子宮破裂などが多く見られる。日本の妊産婦死亡原因の中では、もっとも多い状況が続いている。2010年には、妊産婦死亡事例のうち、産科危機的出血が原因であるケースは約3割にも上っていた。近年は2割前後と、低下傾向にある。(※8)・対策死亡を防ぐための対策は、早期発見・早期対処に尽きる。体調に異変を感じるようなでき事があれば、すぐに医師の診察を受ける必要があるだろう。また、医療現場ですぐに適切な対応ができるよう、環境整備や人材育成などを進めることも重要である。
妊娠中には、胎児を育てるために血流が増え、血管系のトラブルを引き起こすことがある。妊娠中期から後期にかけて発生するケースが多い。脳出血を発症する妊産婦のなかには、妊娠高血圧症候群と診断された経験がある人が多いことがわかっている。妊産婦死亡原因の割合としては、例年13~15%程度。目立った減少はない。(※9)・対策産科危機的出血とともに、早期発見・早期治療が救命のポイントとなる。また妊娠初期から、妊娠高血圧症候群にならないよう、食生活や生活習慣を整えていく必要もあるだろう。妊産婦自身が、リスクを知っておくことも重要だ。
羊水中の胎児成分が母体に流入することによって発症する羊水塞栓症。心肺虚脱を引き起こし、死に至る事例も多く報告されている。呼吸困難、胸痛、ショック症状などが発生。妊娠中や出産時に発生するケースが多く、35歳以上の妊産婦はリスクが高いと言われている。(※10)対策心配虚脱型羊水塞栓の初期症状は多岐にわたる。胸痛、呼吸困難、原因不明の血圧低下、意識低下などの症状が現れたら、速やかに医師の診察を受けよう。一旦発症すると、短時間で生命に危機がおよぶケースも多く報告されているため、医療関係者はもちろん、妊産婦自身のリスクを知っておくことも重要だ。出産時年齢が35歳以上で帝王切開をする場合、とくにリスクが高くなるため、万が一の場合にもすぐに対処できる体制づくりが求められる。
日本と世界の妊産婦死亡率から学ぼう
妊娠や出産は病気ではない。しかし実際には、妊娠や出産を機に病気を発症したり、何らかのトラブルが発生したりして、死に至るケースも報告されている。日本の妊産婦死亡率は、世界レベルで見ても極めて低い。女性が安心して子どもを産める国の一つと言っていいだろう。しかし、世界に目を向けてみると、妊産婦死亡率が非常に高い国や地域は、まだまだ多いという現状がある。「なぜ妊産婦が亡くなるのか?」という理由にも目を向けながら、今後必要とされる対策についても学んでみよう。
※1 厚生統計に用いる主な比率及び用語の解説|厚生労働省※2 母親と新生児の健康指標 母親と新生児の健康指標|unicef※3 わが国の妊産婦死亡率(出産10万対)の年次推移(1〜2ページ)|厚生労働省※4 母親と新生児の健康指標 母親と新生児の健康指標|unicef※5 母親と新生児の健康指標 母親と新生児の健康指標|unicef
※6 妊産婦死亡率|日本WHO協会※7 妊産婦死亡報告事業 2019(4ページ目)|日本産婦人科医会※8 序文(妊産婦死亡と産科異常出血)|日本産婦人科医会※9 妊娠に伴う脳卒中の特徴|日本医事新報社妊婦の脳卒中について|池田脳神経外科妊産婦死亡報告事業 2019(5ページ目)|日本産婦人科医会※10 羊水塞栓症|日本産婦人科・新生児血液学会
※掲載している情報は、2021年11月30日時点のものです。