日本代表にどうして外国人が?トライで何点入るの? 日本はなぜ強くなった? いまさら聞けないラグビー入門
ラグビーのヘッドコーチは、ベンチ入りすることはできません。
スタンドの観客席から戦況を見守り、トランシーバーなどを使ってベンチにいるスタッフに作戦や選手交代を伝えていますが、試合の行方の多くは選手に委ねられています。
ラグビーでは、選手たちの自主性と団結力が重視される伝統があるからです。
前回の2015年W杯で、日本代表が優勝候補の南アを破り、世界に衝撃を与えました。
その背景に、選手の自主性の発揮があったのです。
試合終了間際、南アが自陣の深い位置で反則をおかしました。3点差を南アを追う日本に残された時間は、ラスト1プレーだけ。
この時、日本には二つの選択肢がありました。
①ペナルティゴール(3点)を蹴って引き分けに持ち込み、試合を終える。
②スクラムを組み、そこからトライ(5点)を奪い逆転勝利を収める。
この日のキッカー五郎丸選手は絶好調で、蹴れば決まることは確実。一方でトライを奪う難易度は、遙かに上。まして相手は巨漢揃いの南アです。
引き分けか、逆転勝利かー。
スタンドにいる日本のエディー・ジョーンズ監督(現イングランド代表監督=写真)は、引き分け狙いの「ショット(ペナルティーゴールを蹴れ)」という指示を出しました。
しかし、ピッチにいた日本の選手らは、南アの選手らの疲労を実感し、自分たちが力負けしていないと感じていました。そこで、指示に従わず、スクラムから逆転トライを取ることにしたのです。そして狙い通りにトライを決め、勝利しました。
ジョーンズ氏はスクラムを選んだ選手らに激怒し、ヘッドセットを投げ捨てました。しかしその後、自分に従わなかった選手らを批判することはありませんでした。
「引き分けでいい」という弱気な判断をした自らを反省し、最後まで勝利を諦めず自主的にリスクを冒した選手たちを讃えたのです。
ジョーンズ氏は著書「ハードワーク 勝つためのマインド・セッティング」(講談社)で、こうつづっています。
「本当の成功は、部下がリーダーを超えた時に起こる」
そのうえでジョーンズ氏は、ひたすら指示を守ることを重視しがちな日本社会に対し、自分で判断することの大切さを訴えています。
「スポーツ史上最大の番狂わせ」といわれた南ア戦の勝利まで、日本のW杯通算成績は7大会で計1勝21敗2分。屈辱を重ねてきた歴史があったのです。
しかし、あの勝利をきっかけに、日本の快進撃が始まりました。現在の世界ランクは8位(10月4日現在)にまで上り詰めています。
日本人、外国人。国籍や人種、民族の壁を越え、日本に栄光をもたらすことを目指して集まり、団結した選手たち。
早朝から連日、選手らを徹底的に鍛え上げた世界的名将ジョーンズ氏。
そして、ついに師を超え、リスクを背負って自主的な判断をしてもぎ取った勝利と自信。
日本代表の姿には、これからの日本社会のあり方に対する、大いなるヒントがあるのかもしれません。