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Sep

<フィッシュマンズ"HISTORY Of Fishmans"[Day.1] 1991-1994>まさかの未発表曲まで! 超貴重なレア曲が続出したライブを完全レポート

"HISTORY Of Fishmans"[Day.1] 1991-1994にて、ドラム、ボーカル、MCと大車輪の活躍を見せたフィッシュマンズ・茂木欣一

フィッシュマンズのデビュー30周年を記念したワンマンライブ“HISTORY Of Fishmans”が、3月1日と3月2日の2日間にわたって東京・恵比寿のLIQUIDROOMにて開催された。今回は、「フィッシュマンズ"HISTORY Of Fishmans"[Day.1] 1991-1994」と題した初日の模様をレポートする。【写真を見る】初日のゲスト、chelmicoの鈴木真海子が新たなリリックを引っ提げフィッシュマンズとコラボ!■ライブへの期待が最高潮に高まる中で発表された今回の2DAYS1991年のデビュー以降、日本の音楽シーンに影響を与え続けてきた孤高のバンド、フィッシュマンズ。ボーカル・佐藤伸治が1999年に逝去して以降も、かつてのメンバーやサポートミュージシャン、ゲストボーカルらを招いてライブ活動を継続し、近年も新たなファンを獲得し続けている。また、音楽ストリーミングサービスなどを通じて彼らの音楽にたどり着いた海外のリスナーからも絶賛の声が相次いでおり、アルバム『LONG SEASON』や佐藤存命時のラストライブを収めたライブ盤『98.12.28 男達の別れ』が海外のサイトでオールタイム・ベストにランクインしたことも大きな話題に。2021年には、これまでのバンドの歩みを総括したドキュメンタリー作品「映画:フィッシュマンズ」が公開。これまで当事者たちが多くを語ってこなかったバンドのヒストリーを総括する本作は、公開から半年以上が経過しても各地で上映され続け、彼らの存在を今一度世に知らしめることとなった。そんなフィッシュマンズを語る上で欠かすことができないのがライブ。生粋の“ライブバンド”である彼らのライブは時に3時間超えの長丁場となることもあるが、音源から飛躍したスケールの大きな演奏は圧倒的。どうしてもライブの本数が限られてしまうため、毎回チケットはプラチナ化している。こうして彼らのライブへの期待が最高潮に達する中で発表されたのは、デビュー以降の彼らのキャリアを前期と後期に分け、それぞれの時代にリリースされた楽曲を演奏するという初の試み。しかも会場はかつてフィッシュマンズが数々のライブを行ったLIQUIDROOMとあって、チケットは両日ともに即完となった。■前半からデビュー当時のレア曲が!この日のライブには、元メンバーの小嶋謙介と、フィッシュマンズのサウンドを支えたエンジニア・ZAKも開演前のDJとして参加。中でも、開演直前のSEではフィッシュマンズの未発表曲が流されるなど、このバンドを愛してやまない観客たちを早くも喜ばせる。そして、“Oh!crime”の印象的なリフレインが鳴り響く中メンバーが登場。今回のメンバーは茂木欣一(Dr./Vo.)、柏原譲(Ba.)、HAKASE-SUN(Key.)、木暮晋也(Gt.)、関口“dARTs”道生(Gt.)、原田郁子(Vo.)というおなじみの面々。茂木は「皆さんこんばんは、ザ・フィッシュマンズ!」というシンプルな言葉に続けてバンドメンバーを紹介。さらに、「まだまだ紹介したい大切な仲間たち…」という言葉とともにHONZI、佐藤の名前を告げると、観客からは一際大きな拍手が巻き起こる。そこからジャムセッション風に“Oh!crime”の演奏へなだれ込んでいく。続いては“チャンス”。イントロの印象的なトランペットパートは関口がギターで演奏。後半にはダブっぽいエフェクトや飛行機のエンジン音を模した音が飛び出すなど、ちょっとした遊び心に溢れたサウンドは初期の音源に見られるポップさを体現しているようにも感じられる。木暮がアコギに持ち替え披露したのは“いなごが飛んでる”。近年のライブではほとんど披露したことのないデビュー当初の楽曲が聴けるのもこの日ならでは。レゲエやダブのビートを基調とした曲が多い中、こうしたギターポップ的な佇まいの楽曲は今聞くと新鮮かもしれない。■バンド苦難の時代に生み出された色褪せない名曲たちMCで茂木は、「今日は“HISTORY Of Fishmans”[Day.1] 1991-1994ということで、初期のナンバーを中心に。二日間で一曲もかぶりがないっていうこのアイデアこのアイデアを考えた時、(メンバー間で)ものすごい盛り上がって。たくさんみんなでリハーサルしてきたんで、皆さん思いっきり体を委ねてもらったらうれしいです。最後までよろしくね!」と語りかける。そして「それじゃ今から31年前、1991年にリリースしたフィッシュマンズのデビュー曲行きます」という言葉とともに“ひこうき”へ。やや初期のアレンジに近い軽やかさを携えたカラッとしたサウンドで、木暮やHAKASEのソロパートをより引き立たせていく。「めちゃめちゃ気持ちいいな…」と茂木が不意につぶやく中、披露されたのは“いい言葉ちょうだい”。この曲でメインを務めた原田が歌い出した瞬間、観客から思わず声が漏れる場面も。近年のライブでは披露されていない楽曲だが、持ち前のダブサウンドが心地よく響きまったく古さを感じさせない。原曲の持つ普遍性が、アレンジを煮詰めても損なわれないことに改めて驚かされる。続いては“土曜日の夜”。間奏において茂木と柏原が見せるスリリングなキメは本日もキレッキレ。木暮のギターもファンキーなサウンドで絡んでいき、観客の体を存分に揺らせていく。ダブ・ロックバンドという彼らの肩書きが最もよく体現された曲と言えるかもしれない。そこから“RUNNING MAN”へ。原田と茂木のハーモニーや掛け合いは佐藤伸治存命時には当然見られなかったものだが、佐藤が歌詞として思い描いていた情景をより解像度高く表現できているようにも感じられ、非常にグッと来てしまう。■「そこにいる」ことを感じさせる最高の演奏フロアの様子を見渡した茂木は、「いいね~LIQUIDROOM。大声出したいよね? バッチリ伝わってます! 今日(会場に)来てくれた人、配信で見てくれている人、フィッシュマンズのことを感じてくれている人たちに、今夜じっくりと届けていきたいと思います」と観客に語りかける。そんな言葉に続いて披露されたのは“頼りない天使”。メインボーカルを原田が担う中、『98.12.28 男たちの別れ』を彷彿とさせるアレンジを展開。HAKASEが間奏で紡ぎ出す一音一音には、あの日キーボードを弾いていたHONZIが憑依しているようにすら感じられる。そして、「1993年にフィッシュマンズは『Neo Yankees' Holiday』というアルバムを出しました。そこが僕らの分岐点になったなとすごい思うんですけど、そこから今日は、佐藤くんと一緒にライブをやれなくなってから一度もやってなかったんだけど、ぜひ奏でたいなと思った曲をやりたいと思います!」という茂木のMCから“疲れない人”をプレイ。木暮のカッティングが印象的な軽快で明るいナンバーに、誰もがテンポ良く体を揺らしていく。厳密にリリース順で演奏しているわけではないものの、こうして初期のナンバーを立て続けに聴いてみると、茂木がこのアルバムを「分岐点になった」と語るのもよくわかる。そんな中で、空気が一変したのは原田の歌った“救われる気持ち”。HAKASEがローズピアノ風の音色で伴奏するだけの穏やかなナンバーは、寂しさや切なさを湛えた夜にふと包み込んでくれるような、優しさに満ちた響きで感動的だった。■次回のライブのコンセプトは「La.mama編」?ライブも中盤となる中、披露されたのは“Blue Summer”。茂木が佐藤のデモを初めて聴いたのはこの曲だったという逸話も残るバンド史においても重要な曲だが、同時にこの日のセットリストで最も強烈にダブを感じさせる。ネットリとした濃密なグルーヴは、炎天下の野外で聴きたくなるような心地よさ。演奏後茂木は、「フィッシュマンズを結成する時にサトちゃんがこの曲のデモテープを持ってきてくれて。僕はそれを聴いて、『日本にこんなすごい人いるんだ!』って思って一発でノックアウトされてしまって。それからすごい時が流れてますけど、この曲を2022年3月に演奏してもものすごく心を持っていかれるし、やっぱりすごい出会いだったんだなと。今日こうやって最高の仲間と演奏できて、みんなが集まってくれているのがすごく幸せだし、ずっとこの音楽を届けて続けたいという気持ちになってます」と決意を新たに。さらに、「“Blue Summer”とかをやってて思ったのは、今回“1991-1994”と“1995-1998”と2DAYS作ったんだけど、フィッシュマンズにはデビューまでの4年間があるんで、“HISTORY Of Fishmans”La.mama編をやりたいなと思って。それこそ会場は(かつて頻繁に出演していた渋谷のライブハウス)La.mamaで」と茂木が提案すると、観客から大きな拍手が上がった。■ファン騒然! “ソングライツのアンセム”がまさかの降臨そこからバンド結成の場である明治学院大学のサークル「ソングライツ」についてトークする中で、茂木が「(柏原の)ベースのフレーズですぐわかりますからね。何でも反応します」と豪語すると、柏原がおもむろにベースラインを奏でだす。それにすかさず茂木やメンバーが反応し、バンド初期のレパートリーにして未発売曲である“HAPPY MAN”をセッションするまさかの展開に。ひとしきり演奏を終えたところで、茂木が「ソングライツの大ヒット曲! (サークルの部員なら)全員歌えます」と言えば、柏原も「ヤーヤーヤー♪ってところは、ミッシェルのチバ(※ソングライツの後輩である元・THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、現・The Birthdayのチバユウスケ)とかも歌える」と返し、一同の笑いを誘う。「またみんなで、気合い入れてスタジオ入りましょうよ」(茂木)と言えば、「深夜パックで。ご飯は300円以内でね」(木暮)と返すなど、学生時代のバンド活動を思い起こした会話にメンバーが花を咲かせる場面も。いわゆる“サークルバンド”が30年以上の時を経ても色褪せない楽曲を数多く生み出し、愛され続けている奇跡を強く感じさせた。その後、茂木が「大ヒットすると思ったあの曲」にまつわるエピソードを語り出すと、普段笑顔を絶やさない茂木が珍しく毒づいてみせ観客を笑わせる。それを聞いた柏原から「悪キンちゃんが出てきた」とイジられると、茂木からは「ずっといいヤツでいられないっちゅうの!」と思わず本音が飛び出すなど、トークは大いに盛り上がった。そして、「大ヒットの話もしたんで(笑)、大ヒット予定だったあの曲をちょっとだけやってもいいですか?」と“100ミリちょっとの”へ。ほぼ一番だけのコンパクトな演奏ながらも、ポップに振りきったこの曲の持つキャッチーさは幅広い世代の琴線にも触れるものだった。■本編ラストを飾ったのは“永遠の名曲”「時計の針を進めていきたいと思います。1994」(茂木)という言葉とともに披露されたのは“Go Go Around This World!”。茂木と原田が交互にメインを取りながら明るく歌い上げていく。続く“気分”では、軽快なバンドサウンドの中で関口のファンキーなソロが冴え渡る。まるでジャングルの中にいるような動物の鳴き声が響き渡る中、演奏されたのは“オアシスへようこそ”。イントロの尺八のような印象的な音色と、ずっしりとしたビートで展開されるダブサウンドにいきなり心を掴まれる。世知辛い世の中で、今この場所、この瞬間だけがオアシスであるかのような穏やかさに観客も酔いしれていく。茂木がこの曲の作詞・作曲を手掛けたHAKASEに話を振ると、「(同曲が収録されたライブアルバム)『Oh! Mountain』を聴いたら、拡声器で歌うところの最後で『F◯CK!』って言ってたんだけど、リハで言うのは恥ずかしくて。(本番で)今ちょっと言ってみたんだけどわかったかな? 『F◯CK』なんてあの佐藤伸治さんでも言ったことのないようなけしからん言葉ですけど、今の時代に向けて一声、やっておきたかったなと」と率直な思いを明かした。この日の上音を一手に担うようなHAKASEの奮闘を茂木が労うと、「もう忙しくて…」と本音も。それでも「フィッシュマンズで忙しいのは嬉しいから。いくらでもやります」と返し、観客からは大きな拍手が。その言葉を証明するように、続く“感謝(驚)”ではHAKASEがキーボードをアグレッシブに弾き倒し、フロアを大いに踊らせた。あっという間にライブも終盤となり、「最高の夜です。本当ありがとね! めちゃめちゃうれしい。じゃ最後に、この曲をいきたいと思います」という茂木の言葉に続いて披露されたのは“いかれたbaby”。近年でも上白石萌音、三浦透子、モトーラ世理奈らにカバーされており、この曲からフィッシュマンズを知ったという人も多い永遠の名曲で、最高の大団円を演出しながらライブ本編が終了した。■chelmico・鈴木真海子がラップで楽曲に新たな息吹を!鳴り止まないアンコールの拍手に応え、再びメンバーが登場。茂木は柏原と恵比寿に移転する前、新宿時代のLIQUIDROOMの思い出を振り返りつつ、「譲は昔こんなに喋ってなかったです!」と、近年ライブ中のMCに参加することが増えた柏原をイジり、木暮も「何か歌ってもらおう」と悪ノリする場面も。続いて、茂木がこの日まだMCに参加していなかった関口に話を振ると、「96年に(フィッシュマンズのサポートとして)参加したんですけど、当時はMC乗っ取りっていうのが楽しくて、結構くだらないこと喋ってました。曲間も『いい夜だな~』とか勝手に喋って」と思い出話を。また、「大阪のQUATTROでライブした時、『この後12時にナンパ橋で待ってます』って言って。冗談のつもりだったんだけど、打ち上げやってる時にみんなが『関口さん行かなきゃ』って言うから、『そうか…』と思って行ったんですよ。そしたら誰もいなくて…(笑)」と切ないエピソードを明かし、メンバーと観客を笑わせていた。そんな中、茂木が「今日は特別なゲストを呼んでます」と明かし、chelmicoのMamikoこと鈴木真海子をステージに呼び込む。初対面のエピソードや参加することとなった経緯をトークしつつ、茂木は「今日のために特別なアレンジを施して。もう最高です。皆さん楽しみにしててください」と観客の期待を高めていく。そして「真海子ちゃんと一緒に、この曲の新しいバージョンと言っていいでしょうね。行きたいと思います」という言葉から披露されたのは“JUST THING”。ライブ盤『8月の現状』のバージョンに近いアレンジで展開されたかと思えば、間奏でロック色の強いラウドなパートを挟んだ後、鈴木のラップを全面的にフィーチャー。大胆な改変によって楽曲に新たな息吹をもたらした。さらに「あともう少しだけ、行きます」という言葉とともに“Smilin' Days, Summer Horiday”へ。オートチューンで豪快にエフェクトをかけた原田の歌声がどこかバーチャルな雰囲気を漂わせ、ここでも楽曲に新鮮な味わいを与えていく。この日のラストを飾ったのは“夜の想い”。翌日この場所で何があるのかを観客の誰もがわかっている中で、「明日は何があるのかね?あなたはどこにいるの?」と歌うこの曲で終わる何とも心憎い演出。ラストは観客の「心の大合唱」で初日の幕が下りた。なお、ライブの模様は4月29日(金)夜9:00より、WOWOWライブにて放送される。■フィッシュマンズ「History of Fishmans 【DAY1】 1991-1994」セットリスト1. Oh! Crime2. チャンス3. いなごが飛んでる4. ひこうき5. いい言葉ちょうだい6. 土曜日の夜7. RUNNING MAN8. 頼りない天使9. 疲れない人10. 救われる気持ち11. Blue Summer12. HAPPY MAN13. 100ミリちょっとの14. Go Go Round This World!15. 気分16. オアシスへようこそ17. 感謝(驚)18. いかれたbabyen1. JUST THING(with 鈴木真海子)en2. Smilin' Days, Summer Holidayen3. 夜の想い

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