「"おじさん構文"でも大丈夫」部下とのLINEが苦手な人がやるべき"シンプルな解決策"
■かつては下心丸出しで気持ち悪がられていたが…
4年ほど前から、「おじさん構文」が定期的に話題に上る。おじさん構文とは、中高年がやりがちな主にSNS上での上滑りしたコミュニケーションのことだ。「汗をかいた絵文字」「!や⁉などの絵文字」「〜だネ」「○○チャン」などの特徴を持ち、若者たちには面白がられたり、まねされたりしてきた。
「自分はおじさん構文だった」「テレビで取り上げられていて落ち込んだ」という、当事者の中高年の声もよく耳に届く。テレワークで社内コミュニケーションが対面や電話からメッセージでのやりとりに変わり、中高年が失敗するリスクも増えているという。
「お疲れさま!!!毎日暑くて集中力が続かないネ(汗)あ、トシのせいか(汗)ところで、資料作成進んでいるかな? プレゼン本番は来週なので、その前に確認したいので、今週末までには送ってください(ペコリ)(汗)落ち着いたら、部のみんなで飲みに行きたいネ(ビール)」
20代会社員のAさんは、テレワークが続き、上司からおじさん構文のメッセージが送られてくるようになったことが正直負担だという。「『ウワサのおじさん構文そのまま』と感じた。上司からの連絡だから嫌とも言いづらいけれど、正直リアクションに困ってしまう」とため息をつく。
かつてのおじさん構文は、バイト先の店長などが女子学生に対して、下心丸出しであわよくばデートに持ち込もうとして送ってくるものが多かった。「二人で飲みに行こうとか誘ってくるのがキモい」と聞いたことがある。しかし今は、テレワークによって上司が部下に連絡をする際に、おじさん構文になってしまっている例が増えているようだ。
■絵文字入りの長文が当然だったガラケー文化の名残
そもそも、おじさん構文はなぜ生まれたのか。
今の中高年は、ガラケーでコミュニケーションしてきた世代だ。ガラケーのメールは絵文字が必須だったことを覚えているだろうか。当時の若い女性の間では、絵文字が使われていないメールは「黒メール」と言われ、相手に対して「怒っている」意味になりNGとされた。ある芸能事務所社長への取材で、若い女性には「怖い」と言われてしまうので、メールには必ず絵文字を使うようにしていると聞いたことがある。
つまり、絵文字が多数使われたメッセージはガラケー文化の名残であり、中高年が若い頃に身に付けた文章コミュニケーション術そのものなのだ。よく、メイクが若い頃から止まっているとか、ファッションが若い頃と同じと指摘される中高年がいる。これと同様に、かつての成功体験から得たコミュニケーション術をアップデートしていないからこそ起きている可能性があるのだ。
「上司からのメッセージは一つ一つ長い。メールみたいなメッセージがLINEで来るので、スマホの画面がメッセージでいっぱいになる」と先ほどの20代社員は言う。これは、ガラケーではメールなので長文で送るのが当たり前だったためだ。
一方、若者世代は、LINEやInstagramのコメントなどでリアルタイムコミュニケーションをするため、短文でスピーディなやりとりが多い。「それな」「やば」「マジで」などの短い文章でのやりとりが続く。チャットのようなリアルタイムコミュニケーションでは、相手を待たせないように短文で送ることが多い。そのため、「!」を絵文字にするなどの手間をかけることも少なくなるのだ。
そもそもLINEなどは、特に若者世代では同じ世代の親しい間柄でやりとりされるものだ。それなのに、中高年が若者世代と同じツールでやりとりをしようとするため、両者にズレが生じているというわけだ。
■「好かれたい」「怖がらせたくない」気遣いが上滑りしている
「自分のメッセージが『おじさん構文』と親しい後輩に指摘されてショックを受けた」と、ある50代男性は言う。「自分では気付いていなかった。言われてショックだったが、ではどのように書いたらいいのか分からない」と頭を抱える。自覚しないままの人もいるが、この男性のように自覚しても直し方が分からないことも少なくない。
もちろん、中高年は相手を困らせるためにおじさん構文のメッセージを送っているわけではない。中高年は若者世代にとって目上で年上のため、若者世代に気を使ったやりとりをしようとする。テレワークで部下とも直接会う機会が減る中、若者世代に好かれよう、怖がられないようにしようと気遣うあまりに上滑りしてしまっているのだ。
同時に、気を使って親しくなろうとした文章が、「なれなれしい」「媚びている」と感じられてしまうことになる。互いの距離感を間違っているメッセージは、SNSネイティブの若者には居心地悪く感じられてしまうのだ。このように気遣いが失敗してしまっているのは、大変もったいない。
■テレワーク中の業務連絡はLINEよりメールで
若い頃のメイクやファッションがなかなかアップデートできないように、コミュニケーション術もそう簡単にはアップデートできないかもしれない。またそもそも、若者世代のコミュニケーションが正解というわけではなく、若者とやりとりする際には彼らのコミュニケーション術を身に付けなければいけないというわけでもない。
さらに言えば、中高年が若者世代のコミュニケーション術をただ身に付けても事は解決しなさそうだ。そもそも両者は友だち関係ではなく、必ずしも親しい間柄ではないためだ。
しかし、テレワークはまだ終わりそうになく、上司と部下という関係性でのやりとりはまだメッセージ中心となりそうだ。では、どうしたらいいのか。
Aさんの会社ではメールのほか、チャットやLINEなども連絡ツールとして使っているが、特にLINEの場合に上司がおじさん構文化する傾向が強いという。「メールでは普通。なのに、LINEだとおじさん構文化が激しいのはなぜなのか」と首を傾げていた。
メールは業務上の公式のツールであり、中高年も若者世代もある程度共通のルールやマナーにのっとっているため、問題が起きる可能性は少ないのだ。つまり、ツールをSNSやチャットにしないで、いっそのことメール中心にするといいのではないか。
■「上司らしい」気遣いが若者には歓迎される
繰り返すが、若者世代にとってSNSコミュニケーションは親しい間柄でするものだ。部下など若者世代と親しくなりたい気持ちは分かるが、SNSで親しくなろうとするのではなく、対面コミュニケーションなど別のやり方で親しくなることをお勧めする。砕けたやりとりは親しくなってからすればいいことだ。LINEで業務連絡をするのは悪いことではないが、送る場合もメールと同じように丁寧な文章で送る方がスマートに感じられるだろう。
テレワークには慣れたAさんだが、上司や同僚にちょっとした質問や相談をしづらいと感じることがあるという。つまり、上司としての気遣いを見せるべきところは別にあるのではないか。
たとえば、「困っていることはないですか。テレワークなので質問などしづらいかもしれませんが、気を使わずに気軽に聞いてください」「私も新人の頃は〜に困りましたが、その時はこの本で勉強して助けられました」などの気遣いの言葉をかけたり、質問や相談などを受け付けたりする方が、若者から歓迎されるのではないだろうか。
最近では一部で「かわいい」「ウケる」と人気になり、若い女性でもメッセージがおじさん構文化している人はいるようだ。おじさん構文自体が悪いわけではないが、Aさんのように受け取って困惑する人も確かにおり、心の距離を広げることにつながりかねない。
もし若者世代にそのように捉えられたくないのであれば、そろそろコミュニケーション方法をアップデートし、時代に合わせて変えていってもいいのかもしれない。
----------高橋 暁子(たかはし・あきこ)成蹊大学客員教授ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。----------
(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)