ニュース アップルの「iPhoneを自分で修理」プログラム、日本上陸は望み薄か
「セルフサービスリペア」プログラムを米Appleが発表したが、「自分で安く修理できる!」とぬか喜びするのは早計だ
iPhoneなどのアップル製品の純正パーツやツールを取り寄せ、ユーザーが自分で修理できる「セルフサービスリペア(Self Service Repair)」プログラムを米Appleが発表しました。「修理業者にお願いしなくても割れた画面を安く修理できる!」と喜んでいる人も多いと思いますが、日本のアップルからはこのプログラムが発表されていないうえ、法律的な制約も多く、日本でのプログラム開始は望み薄ではないかと感じています。【画像】プレスリリースで公開したグラフィックにも、静電気防止バンドや吸盤、ゴーグルなど、安全・確実に作業するために用いる特殊なツールの姿が見える素人がiPhoneを分解すると電波法違反になる可能性が日本でセルフサービス・リペアプログラムを実施するには、以下のような壁が立ちはだかっていることを忘れてはなりません。許可をもらっていない人がiPhoneのカバーを開けると「技適」の認証が無効になり、その状態で通信を行うと「電波法違反」に問われる可能性があるiPhoneは細かい部品や細いケーブルが多用されているうえ、分解には特殊なテクニックが必要。知識や技術がないとiPhoneを壊してしまったり、発熱や火災の原因になることも。普通の人には修理はまず無理まず大きな壁となるのが法律の問題です。モバイル通信やWi-Fi、Bluetoothなどのワイヤレス通信機能を搭載するiPhoneは「無線機」に分類されます。無線機が発した電波が周囲にある機器類や人体に影響を及ぼさないよう設計されているかを検査する仕組みが日本では用意されており、検査に合格した製品には「技適マーク」が付与され、日本国内で合法的に使えるようになります。検査の申請はアップルがiPhoneの開発時に済ませているため、ユーザーは何もする必要がないのです。ここで注意したいのが、「技適マークを付与された無線機のカバーを開けた場合、技適の認証が無効になる」ということ。「カバーを開けた場合、内部に勝手に手を加えた可能性が否定できず、電波法で規定した技術基準に適合しているかが分からない」という判断になって技適が無効になり、その状態でiPhoneを使うと電波法違反に問われてしまいます。そのため、普通の人がiPhoneを勝手に分解すると法律に触れる可能性が出てくるわけです。ただし、総務省が「登録修理業者制度」を設けており、登録修理業者制度の登録を受けた修理業者ならば、カバーを開けても技適の認証が引き続き有効になります。アップル以外の民間業者が大手を振って修理できるのは、この制度があるためです。このような技適や電波法まわりの事情を考えると、アップルが日本でセルフサービス・リペアプログラムを提供するのは難しいと考えられるわけです。そもそもiPhoneの分解はとても難しく、元に戻らなくなる法律的な話以前に、「iPhoneを分解して自分で修理するのはとても無理」という点を忘れてはなりません。素人が下手に分解しようとすると、ほぼ間違いなく壊したり元に戻らなくなります。まず、最新技術がコンパクトなボディに詰め込まれたiPhoneは、分解するだけでも大変です。ネジを外せばパカッとカバーが外れるわけではなく、吸盤を用いて表示パネルを外すといった特殊な方法で分解しないと内部にアクセスできません。表示パネルとメイン基板は極細のケーブルでつながっていて、下手に力を入れようものなら簡単にちぎれてしまいます。また、内部は電子部品が高密度で詰め込まれており、体にたまった静電気がパチッと伝われば一瞬で壊れかねません。大容量の電気が詰め込まれたバッテリーに衝撃が加われば、発火や火災などのトラブルにもつながります。これらの事情を考えると、日本でセルフサービス・リペアプログラムが提供される可能性はきわめて低いのではないかと思います。アップル自身も「セルフサービス・リペアプログラムは電子機器を修理する知識と経験を持つ個人技術者向けで、大多数の人はApple純正部品を使用して認定技術者が修理する専門サービスに依頼するのが最も安全で確実」としています。万が一、法律まわりの整備が整ってプログラムが提供されたとしても、普通の人が手を出すのはやめた方がよいでしょう。
磯修