厳しすぎるトレーニングは老化を早める!?東京大学医科学研究所・中西真教授が解説する「老い」を抑制する生活習慣。「不死」は無理でも「不老」は実現するかもしれない〈後編〉
ある程度のカロリー制限は、老化を抑制することがわかっています(写真提供:写真AC)
東京大学医科学研究所などの研究チームは、マウス実験から「老い」の原因となる「老化細胞」を除去する薬として「GLS- 1阻害薬」を見出した。今後、この薬により年齢を重ねても若さと健康を保つことができる未来がやってくるかもしれない…。とはいえ、実用化に至るのはまだ先の話。研究チームの東大教授・中西真氏が今からできる「老い」を抑制する生活習慣を解説する* * * * * * *◆適度なストレス負荷が老化防止にGLS- 1阻害薬が一般的に使われるようになれば、「不死」は無理でも「不老」はいずれ実現できるかもしれません。とはいえ、今すぐに、というわけでもありませんから、日々の生活のなかで、少しでも老化抑制につながることが実践できないか、と考えてしまいますよね。ここでは、細胞老化を研究してきた私から、実践できそうなことをいくつか提案したいと思います。加減が難しいのですが、実は、ごく少量のストレスが加わることで、老化を抑制できることがわかっています。強すぎるストレスは逆に老化を早めてしまいますが、ささやかなストレス、マイルドなストレスを多少かけ続けておくと、ストレスに対する抵抗性が獲得できます。それにより、細胞が老化するのを一定程度抑制することができるようになるんです。たとえば、ダイエットをする人の多くがカロリー制限をすると思いますが、ある程度のカロリー制限は、老化を抑制することがわかっています。マイルドなカロリー制限、必要な摂取量の8割程度に控えて、食べたいという気持ちをぐっと抑えて軽いストレスをかけておくのです。
『老化は治療できる!』(著:中西真/宝島社)
◆腹八文目には重要な意味がカロリーを一定制限することで、体内にNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)という補酵素が増えてきます。カロリー制限とNADは密接に関与していて、飢餓状態になると、体が必要とするのでNADが増えてくるのです。そして、このNADは代謝を促進することで加齢性のさまざまな症状を改善させるといわれています。腹八分目という昔の人の知恵は、実は非常に重要な意味があったんですね。とはいえ、飢餓状態がよいからと、本当に強い飢餓状態に自分を追い込んではいけません。強すぎるストレスは老化を早めてしまいます。時折、一気に痩せたいからといって、絶食に近いような非常に過激なカロリー制限をする人がいますが、それは逆効果です。ストレス負荷が強すぎて、痩せることができたとしても一気に老化が進んでしまうでしょう。あくまでもストレスは低用量にとどめておくべきです。しかし、そもそも必要なエネルギー摂取量というのは個人差が大きいので、適度なカロリー制限といっても、どの程度がその人にとっての「適度」なのか見極めがとても難しい。よく、年齢や性別、身体活動量などから、一日に必要なエネルギー量を示す表などがありますが、その人の適正カロリーというのは、体型や代謝状態、日々の活動内容などによって大きく異なります。個々人にとっての 適正カロリーがはっきりしないまま、「適度なカロリー制限」などと言っても無責任なことになりかねないし、下手にカロリー制限をして栄養不足になると、それはもう完全に体に対してよろしくない状態ですから、私もあまり積極的には言えない ところなのです。ですが、栄養バランスに気をつけつつ適度にカロリー制限をすると、老化は抑制できるのです。それと同じことが紫外線などにも言えます。少量の紫外線であれば、体を強めて老化に対してむしろ予防的に働きます。しかし、その「少量」の見極めが難しい。そこを超えてしまうと細胞にダメージを与えて老化を促進してしまうので、本当に難しいところです。