“自分の街”を離れると決意したウクライナ人たちが「やりきれない胸中」を明かす
何時間も電車を待つことに疲れ切った乗客がキエフ中央駅に殺到した(2022年3月1日) Photo: Asami Terashima
ロシアによる武力侵攻前からウクライナで暮らし、現在も西部の都市リビウにとどまって報道を続けている「キエフ・インディペンデント」紙の日本人記者、寺島朝海氏から届いた現地レポートを掲載する。【画像】“自分の街”を離れると決意したウクライナ人たちが「やりきれない胸中」を明かす何千人もの人々が、毎日キエフの中央駅で何時間も過ごし、ロシアからのミサイルに何度も何度も襲われる首都から逃げるために、電車に乗ろうとわずかな望みにすがっている。キエフから脱出するチケットはもうない。でも、そんなことはお構いなし。列車の切符は事実上、もう紙切れとなっているのだ。すべてが避難列車となっているので、最初に来た人が乗ることができる。皆、チケットの有る無しにかかわらずプラットフォームになだれ込む。女性や子供、お年寄りは、超満員の列車に優先して乗せてもらえるよう車掌に頼む。「『お母さん、お父さん、私はまだ生きてるよ』という家族への電話から、毎朝が始まるなんて想像だにしませんでした」31歳のアンナは3月1日、地元紙「キエフ・インディペンデント」の取材にそう語った。アンナはキエフ中央駅の階段に座って、苗字は公表しないようにと頼んだ。手には大きな白い紙袋を抱えていて、そこにはペットのネズミを入れたケージが入っていた。彼女は3年前、外資系企業に就職するためにドニプロペトロフスク州から首都であるキエフに引っ越し、すぐにキエフに対して深い思い入れを持つようになった。最初は、キエフが大都会で輝いて見えたから気に入ったそうだが、徐々に思いが強くなり、今では「故郷」と呼べるような場所になった。2月24日にロシアがウクライナに全面侵攻を始め、キエフ近郊にミサイルが撃ち込まれ、ある新興都市が灰になっても、アンナはすぐにはキエフを離れなかった。「私は、最後までキエフに居たかった」と、彼女は言った。「私は、キエフを愛してます。今でも、キエフを離れるのが難しい」けれど、キエフへの攻撃が始まってから1週間が経ち、今アンナは大混雑している駅へ行き、必死に逃げようとしている。「とても恐ろしい。本当に恐ろしい」