Qualcommブースで見えた5Gデバイスの裏側とC-V2Xの今 ーCES2019レポート⑨
5Gが既に始まっているアメリカでは、今年数台の5G対応スマートフォンが発売される。
CES2019のQualcommブースには5G対応スマートフォンのレファレンスモデルが展示されていた。先月、発表されたQualcommの最新のチップセットはSnapdragon855だが、こちらはLTEまでしか対応していない。
つまり、この最新モデムを搭載するだけでは5Gの通信はできないということになる。5GスマートフォンのレファレンスモデルではSnapdragon855にX50 5Gモデムをアドオンする設計になっている。
また、5Gは30GHz以上の高い帯域の波長がミリ単位となる通称ミリ波を使うことになっている。
スマートフォンはどのような持ち方をするのか、どこで使うのか、といったことが状況によって変化するため、直進性が強く、障害物に遮られやすいミリ波の受信がスマートフォンを5Gに対応させる大きな課題になっているのだ。
レファレンスモデルではミリ波の5G用アンテナを4つ、スマートフォンの各辺に埋め込むことで5G対応を実現していた。各辺にアンテナを埋め込むことで、どのような角度でもミリ波を受信しやすいアンテナがあること、手で遮られていない箇所が必ずある状態ができる。
Qualcommブースでは既にベライゾンとAT&T向けのWi-FiルーターとOPPO、vivo、xiaomiの5G対応スマートフォンが展示されており、これら含め2019年中に約30機種の5Gスマートフォンのリリースが予定されている。
クアルコム ジャパン ビジネス開発 兼 広報・マーケティング シニアディレクターの野崎孝幸氏によると、スマートフォンのミリ波対応ができれば、あらゆるデバイスに考え方や技術が転用できるため、今後急速に5G対応端末が拡張展開されていくという。
コネクテッドカー領域ではC-V2X(Cellular Vehicle to X)専用のチップセット「9150 C-V2X」の実験状況が公開されていた。リアルタイムでラスベガスでもV2Xの実証実験をしており、その状況を見ることができたが、ラスベガスではV2I(Vehicle to Infrastructure)のみということだった。
この走行テストでは信号機とのコネクテッドを実現し、信号機のデータを得て車の制御をしていた。同様にもう一つの実証実験を公開していたが、こちらはford、audi、DUCATIとの共同で行っているものだ。
自動車と自動車(V2V:Vehicle to Vehicle)、自動車とバイク(V2V)、自動車と歩行者(V2P:Vehicle to Pedestrian)の動作確認をするためのもので、信号のない交差点での安全走行など挙動が確認されていた。
また、V2Pは将来的にはスマートフォンとの通信を想定しているとのことだが、今回のテストではV2Iの仕組みで歩行者が手動で信号に変わるスイッチを押す仕組みとなっていた。
自動車やバイクを検知すると、自動で停止し、バイクが急に横切るとアラートが表示されるなど、着々とV2Xが進んでいることが確認できた。また、それぞれの通信はネットワークやクラウドを経由せず5GAAで決められた5.9GHzでDirect通信することもV2Xの特徴である。
現状の実証実験ではLTEを使っているが、商用化に向けた5Gでのトライが気になるところだ。
これら以外にも、小型のカード型携帯電話やスマートウォッチ、小売業や飲食店向けのIndustrial IoTへの取り組みや、ホームIoTへの対応、Windows向けのチップセットの提供など、幅広い領域への対応が展示されていた。
IoT時代に通信は不可欠なものであり、その技術進化は早い。小型端末に適した省電力モデムの高い技術力を持つQualcommの動向は、今後も5G端末の普及・拡大に強い影響を及ぼすだろう。
■CES2019レポート
未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。