福祉用具 あふれるアイデア 相模原の稲住義憲さん、定年後に自宅で開発
高齢者の転倒防止に役立つ足首の運動器具「足上げ君」
定年退職後にオリジナルの福祉用具開発を続けている「発明家」がいる。相模原市の稲住義憲さん(73)。リハビリ効果が認められ商品化された運動器具も。利用者に届けた後も「もっと使いやすく」とさらなる工夫を重ねる。その心は「技術屋人生を社会に還元したい」。自宅の客間を改造した小さな工房を訪ねた。 3Dプリンターやレーザー加工機などがそろった稲住さんの「工房SERA」。NCルーターという工作機械が縦横に回転刃を動かし、パソコンで作った設計図通りに板に穴を開け、くりぬいている。「商工会議所の補助金五十万円をいただいて買い、市民も使える神奈川大学のラボで使い方を教わりました」。大量の木くずを掃除する吸引器も、家の古い掃除機を改良した自作品だ。 作っているのは足首を上に曲げる背屈という運動をする器具で、その名も「足上げ君」。材料は木板と3Dプリンターで成形したプラスチック。片足をペダルに乗せてつま先を上げ下げすると、カラフルなピンポン球が飛び出す楽しい仕掛け。ゲーム感覚で、すねとふくらはぎの筋肉を鍛えることができる。 神奈川県海老名市のえびな脳神経外科の通所リハビリでは、これまで高齢者約三十人が毎回五分〜十分、「足上げ君」を使用。理学療法士の西田浩伸さん(34)は「歩幅が広くなって歩行速度も上がり、転びにくくなる効果が出ている」と話す。 稲住さんは二〇一七年から開発を始め、介護施設などにモニターを頼んで試作品の改良を重ねた。一九年からデイサービスや特別養護老人ホーム、グループホームなどに十六台販売。今は背屈の角度は五度〜一五度の三段階だが、納入先から「二〇度も付けて。つま先を上げる際の負荷も重く」と言われ、改良する予定だ。相模原市南区の自宅で福祉用具を手作りする稲住義憲さん
子どものころからもの作りが好きで、大学の機械学科を卒業。水浄化装置の開発会社に六十二歳まで勤め、福祉用具開発のNPO法人に参加、自宅に工房を開いた。 これまでに考案した自助具は約二十種類。一四年には脳梗塞で左手がまひした男性に頼まれ、片手で靴ひもをチョウチョ結びにできる器具を考案。洗濯ばさみを活用し、靴ひもを結ぶ際の左手の役割をさせるアイデアだが、失敗の連続で完成まで半年かかったという。これは神奈川工科大学福祉アイデアコンテストで最優秀賞を受けた。 親指と人さし指がわずかに動く七十代男性の「箸でラーメンを食べたい」という望みもかなえた。握り板にバネ付きのプラスチックで箸を固定。人さし指だけで箸を動かせる。リハビリデイサービスに通う男性の元を何度も訪ね、箸の角度の調節など工夫を重ねた。「その人に合わせた自助具はボランティア。お金はもらえません」人さし指だけで動かせる箸の自助具。ラーメンを食べたいという人のために作った
コロナ禍では、糸電話ならぬビニールチューブ電話を考案した。きっかけは、NPO法人の相談員に「アクリル板越しの会話は耳の遠いお年寄りには不便」と言われたこと。感染防止のため、呼気が当たる部分は使い捨ての紙コップを代用した。 「妻や友人に『もっといい方法はないか』と話しながら、デザインを考えたりアイデアを整理する」と話す稲住さん。「作りたいものは次から次へと出てきます」アクリル板越しでは聞き取りにくい人のために作ったチューブ電話
洗濯ばさみを利用し片手で靴ひもを結べる自助具
「足上げ君」の動画はこちらからhttps://kobo-sera.sakura.ne.jp/wp/?page_id=87 文・五十住和樹/写真・平野皓士朗 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。
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