「N-02B」開発者インタビュー
画素数競争に突入したケータイのカメラ機能だが、ファイルサイズが増えるほどレスポンスも気になるところだ。カメラをもっと軽快に利用したい、写真はもっと綺麗に残したい――そんなニーズにフォーカスしたのが、起動時間約0.8秒、撮影間隔約1.5秒という“瞬撮ケータイ”「N-02B」である。しかもWi-Fiや上り最大5.7MbpsのFOMAハイスピードにも対応しているため、撮影機能だけでなく通信速度もスピードアップ。
今回はどのようにして撮影スピードを向上させたかなどを中心に、NEC モバイルターミナル事業部 商品企画部の主任 五十嵐克人氏、同事業部 商品企画マネージャーである有満一裕氏、同社 モバイルターミナル開発本部 主任の細川知志氏、モバイルターミナルプラットフォーム開発本部の技術マネージャー 加藤聰氏にお話を伺った。
■開発コンセプトと製品の特徴
――製品の特徴と、開発コンセプトを教えてください。
五十嵐克人氏 |
五十嵐氏 大きく分けると、カメラ、通信速度、メールの使い勝手といったところを強化しているのですが、N-02Bは特にカメラ機能にこだわった端末です。1220万画素という高画素化のトレンドに加えて、「クイックショット」という撮影スピードがあがる機能を搭載しているのが特徴です。これまでのケータイのカメラは、撮った後に「保存中」と出たりして待たされることも多かったと思いますが、N-02Bは起動が約0.8秒、撮影間隔が約1.5秒と短いため、撮りたいシーンを逃さず素早く撮れるんです。
綺麗な写真として残す機能についてもこだわりまして、「超解像技術対応ズーム」を搭載しました。通常のデジタルズームですと、ズームするほどぼやけてしまうのですが、「超解像技術対応ズーム」はデジタルズームでありながら1220万画素で4倍ズームしてもくっきりとシャープな画像になります。加えて、撮影シーンを自動的に判別して、人の肌や木々の緑、空の青さなどを最適な画像にチューニングし、美しく残すことができる「自動シーン判別機能」も搭載しています。
また、暗いところでも綺麗に撮れるISO3200の高感度撮影や撮影ライト、指でタッチして動くものにフォーカスを当てられる「ついてくフォーカス」や、タッチで人物の顔を選択できる「顔検出オートフォーカス」、女性向けには肌をより滑らかに、若干白く綺麗にみせる「美肌モード」も用意しています。撮影後の写真を綺麗に楽しめる「メディアスビューア」などもあり、撮って楽しむだけでなく、撮ったシーンをストレスフリーで見て楽しめる端末に仕上がっています。
カメラ以外では通信機能が大幅に強化されています。今回は上りの速度も充実しまして、添付した写真を即座にブログなどにアップロードできるよう、HSUPAの5.7Mbpsに対応をしています。今まではアップロードが最大384kbpsだったので、理論値でいうと従来比の15倍の速度になっています。
さらにN-06Aで好評だったWi-Fi機能についても継続して搭載しておりまして、ライフストレージやアクセスポイントモード、ホームUの対応も継続して行っております。インターホン代わりに使える「インターホン連携」というのも面白いところだと思います。
このほかにデコメ絵文字を1200件搭載した点、変換エリアが拡大した点、クイック検索や縦横自動切替、マルチキーの独立など、使いやすさにこだわった機能アップを行っています。ちなみに、新プラットフォームのオペレータパックに対応しております。
――ボディカラーはかなりチャレンジしてるなという感じがしますが。
五十嵐氏 基本的なデザインコンセプトとしては「TECHNO CRAZE」(テクノクレーズ)という言葉で表現しています。N-02Bは、PRIMEシリーズならではの高機能な端末を実現していますので、デザインもそのイメージに合わせて高機能や新機能を使うときのワクワクする気持ちを表しています。
メインカラーはLASER WHITEで、ホワイトとグリーンでスポーティなイメージ、CYBER BLACKは闇を切り裂く先進テクノロジーをイメージしました。FLASH SILVERではメタルカラーとオレンジのコンビネーションで、新しい高機能、高性能感を表現しています。この冬に向けてのトレンドカラーがグリーンとオレンジということですので、そういうところも考慮の上、このようなデザインになりました。
――よくみるとパネルの表面に蜂の巣のような模様がありますね。
五十嵐氏 ハニカムをイメージしてテクスチャーに使っています。ハニカムはカメラや科学をはじめとして、サッカーのゴールなどにも登場しますので、先進感やスポーティさを表現するためにあしらいました。
■起動と撮影が速い「クイックショット」
――カメラ機能ではクイックショットにこだわったとのことですが、この機能を搭載しようと思った理由を教えてください。
細川氏 このクイックショットを開発するにあたって、まず最初に1220万画素センサーの採用したいという課題がありました。画素数が8メガから12メガに上がると、どうしても保存までに時間がかかってしまいます。単純に画素数だけ上げるとユーザーの不満につながってしまうだろうということから、これをなんとかして縮められないかということで開発がスタートしています。
――具体的にはどのようにして実現したのでしょうか。
細川氏 写真を1枚撮るのに必要な仕事としては、撮影して、データを作って、画像処理パイプラインにかけ、データを保存し、撮影スタンバイ状態に戻る、といったような動きになります。これをどうやって縮めるかというところから検討をスタートしました。
まず最初にやったのは、すべての処理を洗いだし、1000分の1秒単位で縮められるところは縮め、省けるところは省き、それぞれの処理をなるべく速くするということです。しかしこの段階でまだ4秒くらいかかっていたんですね。とてもサクサク使っていただけるレベルではありませんでした。
そこで次の工夫として作業順序の入れ換えを行いました。撮影そのものの処理というのは最初のほうにありますから、それが終わったらすぐ次の写真が撮れるようにして、他の残りの作業を後ろの工程で行う形に変えています。これにより撮影そのものの処理が1.5秒に収まるようになりますので、どんどん次の撮影を開始できるわけです。
ただし連続で撮影すると、撮影後の処理が常に並行して動いているような状態が起きてしまいます。そこでソフトウェアを徹底的にチューニングして、ハードウェアに負担をかけたり、処理が遅くならないようにしました。
細川知志氏 |
――真っ白または真っ黒な単純な絵など、撮影する写真の内容によって処理時間が短くなったりするのでしょうか?
細川氏 極端に複雑な絵では若干延びることがありますが、ほぼどんな状況でも1.5秒です。画素数のサイズが下がったときにはもちろん短くなります。一番小さいサイズで撮ったときは0.33秒ですね。1秒間に3枚撮ることができます。
――撮った後の保存のプロセスが後ろで動いているということですが、これは本体メモリに保存した場合とmicroSDに保存した場合でも変わらないのでしょうか。
有満氏 本体もmicroSDも差がないようにmicroSD側でもチューニングしてますので、同じ速度で撮影できます。その点はご安心ください。
――ライフストレージですが、今回写真のサイズが大きくなって容量も大きくなっていると思いますが、最大サイズで撮ってもアップロードはできますか? また、N-06AからN-02Bに機種変更した場合、情報はそのまま引き継げるのでしょうか。
五十嵐氏 はい、情報は引き継げます。アップロードも5MBまでできるようになってますので、最大サイズで撮影した写真もアップロード可能です。
■超解像技術対応ズームとPictMagicで綺麗な写真を
加藤聰氏 |
――カメラまわりでのもう一つの特徴が「超解像技術対応ズーム」とのことですが。
加藤氏 「(ケータイのカメラで)ズームすると汚いよね」という意見が昔からありました。確かに時々光学ズームを搭載している機種も出てくるのですが、どうしてもサイズとコストの問題が大きいんですね。デザイン性やコストのバランスを考慮した場合、搭載するのが難しいので、一つの解として超解像技術を使っています。サイズと画質を両立できて、うまくバランスが取れているのではないかと思います。
――実際にどこまで効果があるものなのでしょうか。
加藤氏 従来機で撮影した写真と、N-02Bで撮影した写真をA4にプリントしてみるとその違いがハッキリお分かりいただけますよ。拡大しているにも関わらず、建物の輪郭、窓枠や看板の文字などがシャープに写っています。従来のデジタルズームですと、こういったところがぼやけてしまったんですが、超解像技術を利用することで解像感を落とさずにズームできます。
――ソフトウェアで処理しているものだとしたら、昔撮影した写真を綺麗に見られるようにはできるのでしょうか。
加藤氏 残念ながら今のところはそうした処理はできないですね。将来的に処理の高速化が図れれば、他の端末で撮った写真に適用することは十分可能だと思います。
――超解像は撮影した絵によって超解像の処理が変わったりするのでしょうか。
加藤氏 現状は一定のパラメーターでやっています。処理自体はエッジ強調とかなり似ていますが、ただ単にエッジを強調するわけではなく、画像の解析結果などに基づいてノイズを上げないように処理しています。
――超解像技術対応ズームが効果を発揮する被写体という物もあるんでしょうか。
加藤氏 そうですね。全体的にくっきり感は出るんですが、特にタテとかヨコとかの線があるシーン、看板ですとか、文字があってエッジがたくさんあるような場所が一番わかりやすいかもしれません。あとは自然の風景でも、例えば細かな葉っぱですとか、いろいろ細かいものが写ってる物などで効果は十分お分かりいただけるかと思います。
――「PictMagic」も進化しているそうですね。
加藤氏 「PictMagic」とは、撮影した写真を人間が好ましいと感じる画質に自動的に補正する、弊社独自の画像処理エンジンです。実はN901iCというかなり前の機種から搭載しておりまして、現在では弊社の全機種でご利用いただけます。無条件にエッジを強調するとか彩度を強めるというのではなく、入力画像のヒストグラムなどを解析し、色の再現性に補正をかけたほうがよい場合のみ補正します。
例えば、人の顔を検出すれば肌の色に着目し、解析の結果、色がずれているのであれば補正します。このとき画像全体に影響を及ぼさないよう、肌の色だけ補正するんです。同様に木々の緑や青空などは特に注力してまして、同一の写真の中でもそれぞれに最適な補正を行えます。このような肌色の補正、グリーン、空の青の補正に加えて、一般的なコントラスト、シャープネス、ホワイトバランスなどの処理もしています。夜景の場合も、従来なら全体の明るさをバッと上げてしまうためやや白っぽく浮いたような画像になりがちですが、現在では夜景と判断した場合は、後ろの夜空の明るさを上げずに、引き締まった絵になるような補正が可能です。
さらに今回は撮影シーンの自動シーン検出機能を強化し、今までのシーンに加えて、料理、夕焼け、桜、紅葉、雪なども加えており、判定結果は画面にアイコンとして表示します。
有満一裕氏 |
――ヒンジ部分がだいぶ変わった印象があります。何か大きな意図があるのでしょうか。
有満氏 弊社としてはN905iで初めて二軸ヒンジを取り入れましたが、開いたときにキー面側にヒンジ部分が飛び出て、一番開ききった状態をサイドから見ると、デザイン的な印象がちょっとよくないと感じていました。デザイナーともいろいろ議論したのですが、開いて横から見たときにアークラインを思わせるような形にしていきたいという思いがあって、今回はキー面と液晶面のつながりというのを大切にして、一歩アークラインに近づいたヒンジを採用しています。このラインは現在進化中なので、また次の端末を見るとその進化の過程が見えるかもしれません。
――デザインとしてはかなり若い印象を受けました。
五十嵐氏 ぜひこの端末で若い世代に広がりを出せたらうれしいですね。
――本日はどうもありがとうございました。