パン・チルト・ズームができるWebカメラでワンオペがはかどる 「OBSBOT Tiny 4K」の意外な使いどころ
3月23日(水)16時56分 ITmedia NEWS
OBSBOT Tiny 4K
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2020年にコロナ禍が始まって真っ先に売り切れたものと言えば、マスク、消毒液、Webカメラである。いや多少話を盛ったが、突然リモート会議が打ち合わせの主流になり、Webカメラが爆売れして価格が高騰したのは事実だ。記憶に残るのは、手軽で高性能として人気商品だったLogicoolの「C920n」だ。もともと7500円ぐらいの商品だが、Amazonで過去の価格をトラッキングしてみると、2020年4月に新品で3万4800円、中古で3万6800円を記録している。この追い風を受けて、デジタル一眼をWebカメラ代わりにするユーティリティが出たり、新機種にWebカメラ機能を盛り込んだりと、カメラメーカーもWebカメラ化の市場の大きさに気が付いていったという経緯がある。今Webカメラの平均値は5000円ぐらいだろうか。安いものでは1000円台で、高いものでもよほど特殊な機能を搭載していない限り、1万円を超えるものはほとんどない。そんな中で、その「特殊な機能」を搭載しているのがOBSBOTのTinyシリーズである。4KとHDの2タイプがあるが、Webカメラでありながら、パン・チルト・ズーム機能を備えた。据え置き型でパン・チルト・ズームを備えたカメラを、俗に「PTZカメラ」という。Pan・Tilt・Zoomの頭文字を取ったものだ。●PTZかジンバルかこれまでPTZカメラは、監視カメラをスタート地点として発展し、画質向上を果たして会議システムや、ワンマンオペレーションのWeb番組などで使われてきた。特にコントロールと映像、電源がLANケーブル1本で伝送できるようになってからは、常設だけでなくテンポラリー的な配信事業でも使われるようになっていった。もう1つPTZカメラ的な流れとして、「ジンバルカメラ」がある。「ジンバル」はドローン搭載カメラ台座として進化が始まり、のちに小型カメラ用の姿勢安定装置として、従来から存在した重量バランスで姿勢制御する「ステディカム」のように使われるようになっていった。もっとも身近な製品としては、DJI Pocketシリーズがある。ジンバルカメラも一種のPTZカメラであるとするならば、これまでは「固定+IP」か、「ハンディ+スタンドアロン」という2択だった。一方でUSB接続するWebカメラは、2000年にブームはあったものの、根底から進化するようなものではなかった。そこに、USB接続するPTZカメラが登場した、という流れである。製品スタイルから固定IPカメラに近いのかと思われるかもしれないが、OBSBOT Tinyシリーズの出自を調べてみると、先にスタンドアロンの「OBSBOT Tail」という製品があった。つまり「半固定+スタンドアロン」という変わった立ち位置からスタートしているのだ。ただこの製品は2021年4月に搭載AIチップの生産終了に伴って本体も生産終了となっている。OBSBOT Tinyシリーズは、先行したOBSBOT Tailのバッテリー、記録部分をなくして小型化し、USBカメラ化したもので、出自はジンバルカメラだが、使用感は超小型PTZカメラという位置付けになる。●簡単に使えるオートトラッキング今回はOBSBOT Tinyシリーズの4Kバージョン、「OBSBOT Tiny 4K」でいろいろテストしてみたい。スペックとしての最大解像度は4K/30Pだが、HD解像度では60P出力もできる。ただ、カメラとしてどの解像度が使用できるかは、PC側のソフトウェアの制御となる。レンズの視野角は86度なので、35mm換算でいうと焦点距離24mm程度だろう。ジンバル部の実行可動範囲は、パンで300度、チルトで90度。本体底部に三脚穴があるほか、マグネット式の固定具でノートPCのモニター部分にも固定できる。電源はPCとUSB-TypeC接続できるなら、ケーブル1本で済む。USB-A端子接続なら、別途電源供給する必要がある。また別売でリモコンもあり、カメラのPTZがコントロールできる。PC/Mac用に専用ソフトウェアが提供されている。ソフトウェア上で各種設定変更や、PTZのコントロールが可能だ。またキーボードショートカットも備えており、キーボードを使っての制御もできる。実際別売のリモコンは、USBキーボードとしてPC側にドングルを挿して使用する。リモコンモードになっているときは、PCのキーボードの一部が使えなくなる。リモコンがキーコードを叩いているからだろう。まずMacBook Airのディスプレイ上にマグネット式の台座を使ってセットしてみた。もともと内蔵のカメラ位置から10cmほど高くなっているが、それだけで印象は良くなる。「追跡モード」を「標準」もしくは「高速」にセットしておくと、ディスプレイを見やすい角度に倒しても、カメラが勝手に動いていいアングルにしてくれるので、それだけでも見栄えの質が上がる。●サンプル動画サンプルの動画は、QuickTimeを使って録画したものだが、4K/30p入力をHD解像度で記録している。画質や色味、コントラストはなかなか良好だ。ただ色味やホワイトバランスを調整する機能がないのは惜しい。オートでも悪くないが、バーチャル背景と合わせたときに、色味を背景の方に寄せたいというときが困る。難点がもう1つ、マイク感度がかなり低いということだ。マイクはPC内蔵を使ったり、別途マイクを繋げば解決するのだが、多くのWebカメラが、人の喋りをメインに捉えてマイクにかなり力を入れているのに比べると、出自がジンバルカメラというところが響いているようだ。一方でジェスチャーによるコントロールはかなり正確に動く。カメラに向かって指でL字を作って見せると、指定された倍率へデジタルズームを行なう。もともと4Kの解像度があるので、最大4倍まで拡大してもまだHD解像度である。HD解像度で録画や会議をしているなら、4倍までは寄れると考えていいだろう。また、3つのパン・チルト・ズームの値をプリセットすることができるので、3つのポジションを切り替えることもできる。リモコンを併用すれば、ソフトウェアを触る必要がないので、ワンマンオペレーションができる。●1カメでやれる範囲を拡張するリモート会議やライブセミナーなどでパン・チルト・ズームが使えると、イベントの質はかなり上がると期待できる。しかしこれまでのIPベースのPTZカメラは、価格もそこそこするのに加え、気軽にPCにプスッと挿してZoomのカメラとして使うといった用途を想定していないものが大半である。それがWebカメラ形式になっていることで、簡単にセットアップできる点は大きなポイントだ。カメラポジションが変わると露出も変わっていくが、顔に対して常に露出が合うように設定できるので、多くのシーンでうまく使えるだろう。カメラが動くことや、3カ所まで位置がプリセットできることで、これまで複数台のカメラとスイッチャーが必要だった演出も、カメラ1つでできるようになる。特に今、学校では急遽リモート授業になる場合も少なくないが、ノートPCのカメラだけで、どうにかリモート授業をやっているケースも見られる。だがこのカメラがあれば、黒板に書いていくタイプの普通の授業でも、適宜カメラが寄り引きできて、特定の位置へカメラがプリセットできるだけで、生徒への見え方もかなり変わってくるのではないだろうか。価格は4Kバージョンが約3万円、HDバージョンが約2万円と、Webカメラというジャンルで考えれば高額に見える。だがIPベースのPTZカメラだと、安いものでも10万円ぐらいすることを考えれば、かなり安い。スマートフォンとジンバルの組み合わせでも、オートトラッキングを実現するものはある。だがWeb会議のノウハウだけで、ライブで多くのアングルがこなせることを考えれば、それとはまた別の使い方が見えてくるのではないだろうか。(小寺信良)