特集:クラウドゲームの将来(バンダイナムコホールディングス、カプコン)
本レポートに掲載した銘柄:バンダイナムコホールディングス(7832)、カプコン(9697)
1.アマゾンがクラウドゲームへ参入する
今回は、クラウドゲームについて考えてみます。銘柄としては、バンダイナムコホールディングス、カプコンを取り上げます。
東京ゲームショウ2020が開催されている2020年9月24日、アマゾンは独自のクラウドゲーミングプラットフォーム「Luna(ルナ)」を発表しました。アマゾンが運用する世界最大の商用クラウドサービス「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」をベースとしたクラウドゲームサービスになります。
クラウドゲームには特別なハードウェアは必要ありません。ゲームソフトは、プレイヤーから最も近くのゲームサーバーから配信されます。プレイヤーの手元の端末にダウンロードすることなく、ストリーミング(流し放し)の形でゲームをプレイします。
ルナのサービス開始時期は明らかになっていません。また、日本でサービスを行うかどうかも不明です。ただし、アメリカ在住の人は早期アクセス権を得ることが可能です。早期アクセス期間中の価格は月額5.99ドル(約630円)です。グーグルのStadia(ステイディア)の月額10.99ドル(約1,150円)よりもかなり安くなっていますが、これは早期割引価格なので、実際にサービスが始まった後は値上げになる可能性があります。
サービス開始時点から様々なジャンルのゲーム100タイトル以上がプレイできます。具体的には以下のようなタイトルです。「バイオハザード7 レジデント イービル」(カプコン)、「Control」(505ゲームズ)、「パンツァードラグーン」(セガ)、「The Surge 2」(フォーカス・ホーム・インタラクティブ)など。
また、アマゾンは大手ゲームソフト会社、Ubiソフトとの提携も発表しました。これによりルナのユーザーは、「アサシンクリード ヴァルハラ」「ファークライ6」などのUbiソフトのタイトルを、最大4Kの解像度でプレイ可能になります。
ルナの対応機種は、マックPC、Windows PC、Fire TV、iPhone、iPadで、Androidスマホ・タブレットにも近々対応予定です。キーボードやマウス、Bluetooth接続のコントローラーのほか、Alexaを搭載したルナ・コントローラーを利用できます。これを使うとより低遅延でのプレイが可能になります。
グラフ1 クラウドゲームの世界市場予測
単位:100万ドル出所:DreamNews(元出所はリサーチステーションプレスリリース)より楽天証券作成2.クラウドゲームにはレスポンスと収益配分の問題がある
商用クラウドサービス(パブリッククラウド)を世界展開している会社のうち、これまでにグーグル(アルファベット子会社)のStadia(2019年11月からサービス開始)、マイクロソフトのProject x Cloud(プロジェクト・エックス・クラウド、2020年から本格サービス開始)が参入しています。家庭用ゲーム会社ではソニーがPlayStation Now(PS Now)を展開しており、PS4だけでなく、WindowsPCでPS4用ソフトが遊べるようになっています。PS Nowの会員数は、2019年3月末の約70万人から2020年4月末には220万人以上になっています。
アマゾンはかねてよりエンタテインメントに強い関心を持っていたため、クラウドゲームへの参入は予想されており、大きなサプライズはありません。また、今すぐにソニーや任天堂の家庭用ゲームビジネスにとって大きな脅威になるとは思えません。カプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングス、バンダイナムコホールディングスなどの日本のゲームソフト専業にとっては、ゲームソフトの新たな販売先が出来ることになりますが、これも直ぐに大きな収益源になるとは思えません。
クラウドゲームの問題点は、2つです。1番目の問題は、プレイヤーから最も近いゲームサーバーからプレイヤーの端末(パソコン、スマホ、家庭用ゲーム機、テレビ)との間の送受信の速度です。日本でもアメリカでも、通常の光回線のスピードではクラウドゲームはレスポンスが遅くなるはずです。アクションゲームの場合は特にレスポンスが問題になります。
ただし、アマゾンのルナが最初に投入するソフトに容量の大きいゲームである「バイオハザード7」が含まれていることを見ると、レスポンスにはある程度の自信を持っているのかもしれません。実際にサービスが開始されてプレイヤーがどう感じるかが重要になります。
この問題を解決するには、5Gの性能が向上して、5Gが普及するのを待つしかないと思われます。今の5Gスマホは、チップセットと基地局の両方に課題があり、4Gで使っていた電波と周波数が近いサブ6の電波では4G並の受送信スピードしかでないと言われています。ただし、来年になると送受信の高速化に低遅延、同時多接続の機能が加わった5Gのフルスペックのスマホが出てくると言われています。また、2022年以降は5Gスマホのチップセットが3ナノに進歩し、より一層高性能化する見込みです。そのような高性能チップセットが十分にコストダウンされて、パソコン、スマホ、家庭用ゲーム機、タブレット、テレビなどに搭載されるようになると(2~5年後?)、状況が変わる可能性があります。
2つ目の問題点は、ゲームソフト会社がアマゾンに払うロイヤルティの問題、あるいは収益配分の問題です。クラウドゲームは月額定額課金がベースになりますが、アマゾンもグーグルもこれを安く設定しています。PS Nowの利用権も1カ月1,180円(税込み)です。この価格が高すぎると利用者が増えず、安すぎるとサードパーティ(クラウドサービスや家庭用ゲーム機の会社にソフトを提供するゲームソフト会社)の収益が少なくなります。クラウドゲームに提供されているゲームソフトに新作がほとんどなく、もっぱら旧作ばかりが投入されているのは、ゲームソフト会社が、将来性はともかく今は大きな収益になると考えていないためと思われます。