現代アラブ文学とパレスチナ問題入門 9月10日より開講!【NHKカルチャーオンライン講座】
エルサレムのアル=アクサー・モスクと壁
パレスチナ問題は、「世界で最も解決が難しい紛争」とも言われ、70年以上、対立が続いています。ユダヤの人々はもともと、国家を持たず世界各地に離散して暮らしていましたが、第2次世界大戦中の「ホロコースト」の悲劇などを経て、大勢の人が安寧を求め、自分たちの祖先の土地だとする現在のイスラエルに移り住みました。そして1948年、第1次中東戦争が勃発し、パレスチナにユダヤ人国家イスラエルが建国された結果、70万人以上の、それまでその地に暮らしていた先住民パレスチナ人が土地を追われ、故郷と家を失って、ヨルダン川西岸地区や、ガザ、ヨルダン、レバノンなど周辺諸国に逃れました。住民がいなくなった町や村は完全に破壊されるか、ユダヤ系住民が住むようになりました。一方、難民となったパレスチナ人は、難民キャンプの粗末なテントや洞窟などで困窮を極めた生活を強いられます。以来、「故郷への帰還」を切望しながら、70年以上におよぶ年月を難民として過ごしています。第2次世界大戦後の1949年に発効した国際法のひとつ、ジュネーブ条約は、占領下に置かれた弱い立場の人々の権利を守り、占領の固定化を防ぐ観点から、入植活動を違法だと規定しています。武力で他人の土地を奪い、そこに人を移住させてしまえば、占領状態を解消することが難しくなるからです。しかしイスラエルは1967年以降、ヨルダン川西岸や東エルサレムなどで、国際社会から国際法違反を指摘されながらも、入植活動を進めてきました。入植活動は、占領地にユダヤ人のための住宅を建設して移住させ、占領を既成事実化していく動きです。イスラエルの政治で右派勢力が伸張する中で、積極的に進められてきました。イスラエル国内のオレンジ色部分がパレスチナ。
パレスチナは、「ヨルダン川西岸地区」と「ガザ地区」に分かれています。ガザは周囲をイスラエル軍に完全に包囲され、人や物の出入りが厳しく制限されています。人口の約7割は難民で、人々は国連や支援団体からの援助物資などで命をつないできました。2008年以降は、ほぼ2年おきにイスラエル軍の激しい爆撃を受け、多くの市民が犠牲になっています。紛争は現在も続き、2021年5月10日から11日間にわたって昼夜問わず続いたイスラエルによる空爆の結果、民間人が暮らす住宅地への爆撃で子ども66人、女性40人を含む256人が亡くなり、2,000人以上が負傷しました。多くの家屋が破壊され、学校や医療施設にも被害が出、少なくとも7万5,000人が国内避難民になりました。【参考出典】https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210525/k10013049711000.htmlhttps://www3.nhk.or.jp/news/special/new-middle-east/jewish-settlements/https://ccp-ngo.jp/palestine/今年5月にニュースを見て、パレスチナ難民のために何かできないかと思い、この講座を企画しました。パレスチナ問題はたびたびニュースで報道され、教科書にも載っています。しかし、多くの人にとってはまだまだなじみの薄い、なんだか難しそうな、遠い国の自分とは関係がないこと、という認識かと思います。この講座では、パレスチナ問題について、歴史上どういった経緯や事実があり、今日に至っているのか。今現在、パレスチナで一体何が起きているのか解説します。そして紛争の結果、難民となった人々が書いた小説や詩を読むことを通して、パレスチナの人々が、どんな生活をし、何に喜び、苦しみ、困り、何を感じているのか。彼らの状況や心情を少しでも理解する糸口になればと願っています。本講座の講師、岡真理先生は、文学者として、「戦争や殺戮や暴力を前に、文学は何ができるのか?」という根源的な問いに、真摯に向き合ってこられました。先生は現在では、「文学に意味はある、できることがある」と確信していらっしゃるといいます。「人間が人間としてあることの意味が極限的に問われている状況だからこそ、もっとも非人間的な情況におかれた人こそ、一切の尊厳を否定しようとする暴力に抗して人間らしくあるために、文学や芸術が、何にもまして必要とされている。」著書『アラブ、祈りとしての文学』(みすず書房)の中でそう述べています。他者の人間性の否定や無関心が、暴力や殺戮を可能にしているのならば、文学を読み、知ること、そして想像力や共感・共苦する力を養うことが、それを防ぐ、ささやかな、しかし大切な一歩になると考えています。岡真理先生
1948年、ユダヤ国家建設に伴う民族浄化で70万人以上の住民が故郷を追われ、パレスチナ人は故国を失いました。それから73年。封鎖下のガザで、占領下の西岸で、東エルサレムで、パレスチナ人の民族浄化は今なお進行中です。すさまじい暴力がパレスチナ人を見舞い続けるのは、彼らが自らの権利と夢を決して手放そうとしないからです。この講座では、自由と尊厳を求めるパレスチナ人の73年の抵抗の軌跡を、文学や映画を通して辿ります。①9/10 人が難民となるということ 『悲しいオレンジの実る土地』ほか②9/24 人が難民として生きるということ(1) 『太陽の男たち』ほか③10/8 祖国とは何か、パレスチナ人とは何か 『ハイファに戻って』ほか※前半3回は、いずれもガッサーン・カナファーニーの著作を扱います。④10/22 人が難民として生きるということ(2)『大地がぼくらに閉じていく』※ほか※パレスチナ人の詩人マフムード・ダルウィーシュ(1942~2008年)の詩。⑤11/12 インティファーダ 占領を生きる 『アーミナの縁結び』※ほか※ヨルダン在住のパレスチナ人男性作家、イブラーヒーム・ナスラッラー(1954年~)の小説。⑥11/26 イスラエルのパレスチナ人 『ハイファ・フラグメンツ』ほか生前のガッサーン・カナファーニー
★ガッサーン・カナファーニー(1936~1972年)は、パレスチナ生まれ。12歳のときユダヤ人武装組織による虐殺を生き延び難民となります。パレスチナ解放運動で重要な役割を果たすかたわら、小説、戯曲などを執筆。36歳の若さで自動車に仕掛けられた爆弾により暗殺されました。遺された作品は現代アラビア語文学を代表する傑作として評価されています。●講師紹介:岡真理(おかまり)1960年生まれ。東京外国語大学 大学院・修士課程修了、エジプト・カイロ大学に留学。在モロッコ日本国大使館専門調査員などを経て、2009年より現職・京都大学大学院 教授。著書:『ガザに地下鉄が走る日』、みすず書房、2018年。『アラブ 祈りとしての文学』、みすず書房、2008年。『棗椰子の木陰で―第三世界フェミニズムと文学の力』、青土社、2006年。
講座名:「現代アラブ文学とパレスチナ問題 入門」講師:京都大学大学院 教授、アラブ文学者 岡真理受講形態:オンライン開催日時:第2・4金曜 19:00~20:30 (9/10、9/24、10/8、10/22、11/12、11/26)受講料金:NHK文化センター会員・一般(入会不要) 税込19,800円主催:NHK文化センター横浜ランドマーク教室▼お申込みはこちらからhttps://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1235384.html