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Aug

摩耗タイヤ、職人技で復活 ビジュアルで迫る現場

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現場探究

関西 (更新)

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黒光りする古いタイヤが回転を始めると、真新しい溝が寸分の狂いもなく貼られ、新品のように生まれ変わる。すり減ったタイヤの表面を貼り替えて再利用する「リトレッド」と呼ばれるリユースタイヤの製造工程だ。タイヤの約7割の部材を再び使えるため、リトレッドを2回繰り返すと新品3本を製造するのに比べ、原材料に使うゴムの量と二酸化炭素(CO2)排出量を半減できるという。

大阪市住之江区の工場が立ち並ぶ一角に、ブリヂストンが2013年に設立した「ブリヂストンタイヤリサイクルセンター大阪」がある。ここで生まれ変わるタイヤは年間約3万本。工場内で自動化された工程は少なく、高度な製造技術を支えるのは地道な手作業の数々だ。走行により摩耗した溝の削り取り、石などを踏んで損傷した部分の補修など、作業員がそれぞれのタイヤに応じて「オーダーメード」の処理を施していく。

中でも路面に接する部分のゴムをタイヤに貼り付ける工程には、緻密な職人技が凝縮されている。ぴったりと巻くためのポイントは、必要な長さと正確な位置の見極め。機器を用いて計測しても、数㍉の誤差は珍しくない。同じサイズのタイヤに一定の基準で事前の処理を施しても、円周や断面の丸みが一本一本異なるからだ。最終的なよりどころは人の目と手の感覚だ。

こうした感覚を養う鍵となるのは現場での経験だ。同社は技能習得のため独自の技術認定制度を備えるが、この工程を正確にこなすには認定後、早くても1年はかかる。9年のキャリアをもつ横手良真さん(51)は「現場で失敗を繰り返すうちに何㍉余分に残せばよいかの目利きができるようになる」という。

摩耗タイヤ、職人技で復活 ビジュアルで迫る現場

貼り付けたゴムをタイヤに結合させるため、筒型の装置に入れて硫黄、105度の熱と圧力を加えること3時間半。最後に厳しい検査工程を経てリトレッドタイヤは誕生する。降雪期を控える秋口は繁忙期だ。顧客からは冬用に表面を貼り替える注文が次々と舞い込み、工場はフル稼働が続いている。

更生タイヤ全国協議会によると、欧米ではトラック・バス向けの半数がリトレッドタイヤだが、「新品志向」が強い日本での比率は2割ほどにとどまる。材料の再利用やリサイクルに取り組むサーキュラーエコノミー(循環型経済)への転換が進むなか、ブリヂストンもリトレッドを成長分野と位置づけ、製造拠点を全国で13カ所構える。そのうち、同センターは回収した摩耗タイヤの「リユース」と廃タイヤを燃料などに換える「リサイクル」が一貫して行えるグループ内で唯一の施設だ。

一方でユーザー側の意識は安全性にも向かうが、同センター営業本部の仲野元庸部長は「生産現場をみた顧客から、これだけ人の目や手が入っているなら安心、と高評価をもらっている」と手応えを感じている。生まれ変わったタイヤを送り出す前には新品さながらの黒色ペイントを施す。リトレッド特有の新旧の境目を目立たなくするための配慮だ。摩耗タイヤは最後のひと手間を加えられ、新たな道に向け走り出す。

(柏原敬樹)

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