光遺伝学用マイクロLEDアレイ極薄フィルムを開発:脳の特定部位を狙って光を照射
豊橋技術科学大学と獨協医科大学、沖縄科学技術大学院大学は2022年3月、薄くて軽く柔軟性に優れた光遺伝学用の「多点マイクロLEDアレイ極薄フィルム」を開発したと発表した。新しい神経科学研究への応用に期待する。
脳機能を理解するため近年は、生体の外部から光を当て、神経細胞の活動を制御することができる「光遺伝学的手法」が活用されている。ここで必要となるのが、脳の特定部位や複数部位に、光を同時に照射できる光遺伝学用のデバイスである。ところが、現行のLEDはサイズが大きく厚みもあるため、広範囲に脳を覆うデバイスを作製することは難しかったという。
そこで研究グループは、LEDサイズが100μm以下で、厚みも数μmというマイクロLEDを多点配置することにした。このため、「マイクロLED中空構造の形成技術」と「マイクロLEDアレイ一括転写技術」を開発した。
上図はマイクロLED中空構造の形成技術、下図はマイクロLEDアレイ一括転写技術 出所:豊橋技術科学大学他左図はマイクロLEDアレイ中空構造、右図はマイクロLEDアレイ極薄フィルムの発光像 出所:豊橋技術科学大学他これらの製造方法はこうだ。まず、水酸化カリウム溶液による異方性ウェットエッチング法を適用し、LED層下部を選択的に除去。これにより、高密度に配置されたマイクロLED中空構造を形成した。中空構造になりLED層が基板より分離されたため、熱剥離シートを用いてLED層だけを一括で剥がした。
マウス脳に密着したマイクロLEDアレイ極薄フィルムと、3カ所のLEDを点灯させた光照射の様子 出所:豊橋技術科学大学他こうした工程によって、生体適合フィルムであるパリレンフィルム上にマイクロLEDを配列させた。作製したマイクロLEDフィルムは、曲げても光照射特性は劣化せず、マウスを使った光遺伝学実験でも、脳活動を制御するのに十分な明るい青色発光が得られることが分かった。
今回の研究成果は、豊橋技術科学大学電気・電子情報工学系の関口寛人准教授と獨協医科大学先端医科学統合研究施設の大川宜昭准教授、沖縄科学技術大学院大学知覚と行動の神経科学ユニットの福永泉美准教授らによるものである。