可愛いエサの紹介に「かわいそう」の声!?「マウス丸ごと」食べるフクロウ 動物園が伝えたい「命をいただく」とは
真っ白いのはオス。メスとの区別はしやすいのですが、頭が回りすぎるので今どっちを向いているかは見失いがち
動物園で飼育されている野生動物の中には、肉食の動物も少なくありません。そんな中、神戸市立王子動物園のシロフクロウ舎前に今年1月、エサを紹介する掲示が取り付けられました。そこにはマウスがガブリとくわえられた写真も。一瞬ギョッとしてしまいますが、写真の下には「人間も、肉や魚を食べますよね?」とド直球の問いかけが添えられていました。方や、昨年にはYouTubeで生き餌を与える動画が炎上し、制作者が動物愛護法違反容疑で書類送検される事件も。私たち人間も含め、切っても切り離せない「命」をどう捉えるべきなのか、園が掲示に込めた思いを聞きました。【写真】シロフクロウのエサ紹介…「マウスを丸ごと」食べさせる理由も 答えてくれたのは、飼育展示係長で獣医師の谷口さん。シロフクロウは北極圏のツンドラ地帯に生息する大型のフクロウで、ネズミなどの小動物を補食して生活しており、同園ではオスのラマルク、メスのホッピー、ソナの計3羽を飼育。ちなみにホッピーは以前いたオスとの間にソナを始め25羽のヒナをもうけた「ビッグママ」です。-マウスの写真がリアルです。この掲示をつくった理由は?「シロフクロウが、野生下ではネズミを食べて生きているということを知ってほしいと、飼育担当者がつくりました。動物園では生きたままのマウスではなく、適切に処置したものを与えています。ビタミンやカルシウムなど、シロフクロウが生きるために必要な栄養がたくさん含まれているため、丸ごと食べる必要があるんです」-毎日ですか?量は「3羽に対しマウスは朝6匹、夕方8匹。そのほか馬肉を夕方に200g与えており、前日の食いつきなども見ながら調整しています。食欲は日によって違うので反応も様々ですが、食欲がある日は、エサを置くとオスのラマルクが真っ先に飛んできて、次いでメスのホッピーが駆け寄ってきます。ホッピーの娘のソナは慎重な性格なので、他の2羽の様子を見ながら、ひと呼吸おいて食べに来ます」-マウスの写真を見たお客さんから「かわいそう」という声もありますが…「私たち人間も、多くの人がお肉や魚などほかの生き物の命をいただいて生きています。それと同じで、飼育下のシロフクロウがマウスを食べることは何も特別なことではない、ということを伝えたいと思いました」-「食育」という面もあるのですね。子どもたちに伝えたいことは。「動物は、いろいろな動物や植物の『命』をいただいて、自分の命をつないでいます。今日も元気に過ごせるのも、さまざまな命をいただいているからです。動物園に来て、その命の重みというものを感じてもらえればと思います」 同園では、マヌルネコ、オオヤマネコ、ボブキャットを飼育する通称「王子猫長屋」でも、エサ紹介の掲示に「冷凍ヒヨコ」などの写真が。こちらも「残酷」「子どもが見るのに…」という声が聞こえてくるのですが、「鶏むね肉」「鶏もも肉」の写真にはだれも何とも言わないのは、わたしたちが普段食べている“食材”だからでしょうか。「冷凍ヒヨコなどは、丸ごと与えることで、内臓や骨を取り除いた肉からは摂取しにくいビタミンやミネラルなどの栄養が得られるほか、羽毛などが腸の動きを助ける働きもあります」と谷口さん。「動物を鑑賞するだけでなく、動物の生態や野生の状況を深く知り、生物多様性保全の重要性を学んだり、自分にできる行動を考え実践したりすることで、野生動物や自然環境の保護に少しでもつなげていただければ」と話します。時に批判にさらされながらも、野生動物の姿や自然の営みを伝える立場として、食べる命とも食べられる命とも真正面から向き合い、どうすれば正しく伝えられるかと試行錯誤する飼育員たち。命をおもしろ半分にエンターテインメントにするような行いは言語道断で、決して許されないことですが、単に「かわいそう」では解決しないことも、考えていかなければいけないのではないでしょうか。(まいどなニュース特約・茶良野 くま子)
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