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Aug

「今すぐ、MSXの電源を切れ!」コナミのMSXゲーム伝説4:MSX30周年

MSXの電源を切って押入れに仕舞いこんでから20年以上経っている方々も多いかと思いますが、今宵はぜひ昔を懐かしんでお気に入りのゲームを挿して電源を入れてみませんか?(火を噴いても責任は取りませんが)というわけでこんばんわ! MSXアソシエーションです。今回は“コナミのMSXゲーム伝説”といえば「コレぞ!」というタイトルを文章大増量で2本お送りします。

■METAL GEAR(1987年)

コナミのMSXゲーム作品群を代表する、いや全MSXゲームを代表する、いやいやゲーム大国日本を象徴するタイトルとして広く海外でも評価される『メタルギア』シリーズ。その記念すべき第一作目がこのMSX2版『METAL GEAR』だ。

コンピューターゲームの世界ではミリタリー・アクション物はまだまだ珍しかった時期である。理由は簡単で、コンピューター全般の性能が低かったせいである。アクションゲームを作る上で最も性能が高かったのが、当時はアーケード(いわゆるゲームセンター)の世界であったが、数は少なかった。あったとしても「よく分からないヒーローが何かの銃とかを撃ちまくって、どこかの敵群を全滅させる」といったものであった。

当のメタルギアも、当初指示された企画はそういう類の“バンバン敵を撃ちまくって進む”的なゲームを目指すものだったという。しかし、言うまでもなくMSX2の性能ではスプライト機能ひとつとっても、画面上に敵弾を多数表示できるような性能も無く、到底ゲーセンにあるような戦場アクション物の爽快感も迫力も出せそうもなかった。

一方、パソコンゲームの世界ではミリタリー物は数多く出ていたものの、これらは既存のボードゲームを移植した類が多く、兵士視点での戦場の細部は描かれない戦略的なシミュレーションであった。そう考えてみると、メタルギアという作品が求めたリアリティというのはかなり独特であったことが分かる。

南アフリカの武装要塞国に単独潜入、敵の新兵器の情報を探り、これを破壊する。ゲーム開始当初はメタルギアという単語だけが先行して潜入した他の隊員からもたらされているが、彼は消息を絶っている……。改めて振り返ると、実に魅力的でそれまでにない大人っぽい設定だ。

↑敵要塞に潜入した主人公ソリッド・スネーク。「交代だ!!」と言ってどこかへ立ち去る敵兵。その隙にエレベーターへGo!

とは言ったものの、実を言うとメタルギアのMSX界へのデビューはやや地味であった。軍事基地をリアルに描写した結果どうなったかというと、茶色と群青色を主体とした少し暗めのグラフィックとなり、まだ派手な色使いが主流であった中でかなり異彩を放っていた。

説明書も武器の種類やら敵のプロフィールをやたらと詳細に書いているのに驚かされる。M79にMAC-11、RPG-7V、スペツナヅにSASにGSG9など、今日ですらマニアでもなければ知らない単語が並んでいる。当時のMSXユーザーは小中学生が主体で、果たしてこのこだわりはどこまで通じていたのだろう。多くの人にとっては謎の作品だったのではなかろうか。

いやいや、ところが発売から時間が経つにつれ“濃いファンレター”が多数届くようになったという。その濃さたるやファミコンもアーケードも凌駕する熱意あるものだったそうである。(※1)さすがはMSXユーザー、大人はもちろん小中学生に至るまで、やりこまなくては分からないメタルギアの魅力を理解し支持したのである。

※1 コナミでは、当時ファンレターは、アーケード、ファミコン、MSXに分類されて閲覧できるようになっていたんだそうな。MSXゲーム部門はその出荷数が他機種に比べて少なかったにも関わらずファンレターの数がとても多かったらしい。MSXチームはそれを心の支えに頑張ったんだ、って小島監督が言ってた。その辺りの逸話についてはMSXマガジン永久保存版3も見てね。今は売り切れだけど。

当時、各雑誌のゲームライターからはそのリアリティを評価する声は多少はあったものの、我らがMSXマガジンすら「ゲームセンターにあるような」とか「これでゲーセンに行かなくて良いかも」とか、あきらかに「コイツちゃんとゲームやんねーで書いてんな」と見抜かれる的外れな解説をしていた。そう、『メタルギア』の魅力はゲーム雑誌でもゲーム評論家でもなく、世間一般の普通のMSXユーザーがまず最初にその素晴らしさを発見し、高評価し“口コミ”でその抜群の面白さを広めていったのである。インターネットなんてまだやってなかったし。

さてゲーム本編であるが、後のシリーズに共通して受け継がれているのは“敵から隠れつつ進む”ことと“無線機”である。本作は特に前述の通りMSX2の低スペックの影響を強く受けている。しかし、例えば“敵や監視カメラはほぼ真っ正面にいる時にしかプレイヤーを発見しない”ようになっているのを逆手にとってパズル的要素とし、推理力や洞察力を必要とさせるなど独特の魅力や緊張感をもっていた。監視カメラはちょっとズレているだけで発見されないし、上から見た画面なので一見楽なように思えるが、それを補うようにマップが緻密に計算され構成されている。同じ場所でも主人公の移動元によって敵兵の移動速度や巡回ルート、初期位置などが細かく変わり、簡単には抜けさせてくれない。

↑「!」やばい見つかった! 『メタルギア』は、なるべく敵に見つからないように進みながら情報を収集しなければならない。

また発見された時のペナルティは特に強く、体力の低い序盤はまともに撃ち合うとすぐに死んでしまう。しかもこのゲームは敵兵と戦うメリットがほとんどない。BIGBOSSたちからの無線によるアドバイスに従って冷静に進まないと、おそらくは最初のエレベーターにもたどり着けないだろう。銃火器を撃って撃って撃ちまくって突破していくような力技だけでクリアするようなゲームとは違うのだよ。

 「今すぐ、MSXの電源を切れ!」コナミのMSXゲーム伝説4:MSX30周年

今も居酒屋で小一時間は語り合える伝説の終盤の展開も、当時のゲームにはまだ珍しい“裏切り”を描いたどんでん返し的なものであった。アドバイス通り行動すると、なんとスタート地点に戻ってしまうのだ。

かの有名な「MSXノ デンゲンヲ キレ!」という謎のセリフなど、これまでと矛盾するBIGBOSSの不審な言動が目立ち始める。そして最後に、これまで通信のみで姿を見せなかった彼がその正体を明かすのだ。ようやく、苦労の末ついにたどり着いたエンディング、爆発する要塞を見ながら受け手のいない通信をする主人公と、隠蔽のための偽ニュースを伝えるラジオ放送、そのまま繋がるスタッフロール。今見てもバッチリ決まっている。よくこれを1Mビット(128KB)のROMに詰め込んだものである。

↑『メタルギア』シリーズ最強のアイテム“ダンボール”。中に入ればホラ、こんなに不自然なところに置いてあっても敵に見つかることはない。

なにせ1987年はまだ(一部のアドベンチャーゲームを除くと)ゲームの中に“ストーリー展開”がちゃんとある作品は少なかった。意外に知られていないが、本作のパッケージ裏には“映画のような”ゲームであることがハッキリと書かれていることは特筆すべきだろう。しかし本作では、BIGBOSSがなぜ“メタルギア”を作ったのか、その経緯は明かされない。その謎は次回作『METAL GEAR 2: SOLID SNAKE』を待つことになる。

ちなみに本作はセーブがカセットテープにしかできないため、今日実機+ROMで遊ぶのはマニアックな我々でもかなり大変である。しかし現在は様々な形でMSX版の1、2共に復刻版が出ており、PS3、PSVita、XBOX360、Wiiの各ハードで手軽に遊べるのはたいへん有り難い。良い時代になったものだ。

■METAL GEAR 2: SOLID SNAKE(1990年)

1990年7月に発売された本作は、コナミのMSXゲームの最後の作品でもある。前作では“前しか見ていない”敵兵士であったが、今作では敵兵の視界が広がり、聴覚も持つようになった。だからトラップ(罠)として足音が鳴る床などの仕掛けや、くしゃみをして見つかっちゃったりすることも。システム面でもトラックの下などに隠れられるホフク操作、敵兵に発見された状態である“危険”から“回避”のモード移行など、後の『METAL GEAR SOLID』(初代プレイステーション版)に繋がるアイデアが数多く搭載されている。

ストーリーも大幅に強化され、前作では中盤まで潜入アクションが主体であったが、本作は序盤から様々な謎が提示される構成となっている。世界から核兵器の脅威が去りつつあった時代、廃棄されつつあった核兵器を強奪して核武装を遂げ、石油精製を可能とする藻類の研究者を拉致、世界に軍事優位を確立しようとする謎の敵国ザンジバーランドへの潜入。これらがタイトルデモで流れるのだが、本当に「カッコいい!!」。ずっと見てても飽きないとすら言われたものだ。

↑電源を入れると自動的にスタートするデモを初めてみたとき、あまりのカッコよさに「MSX2ユーザーで良かった。コナミありがとう!」と心底思ったものだ。

前作の味方が敵側につき、時折入る正体を明かさない協力者。敵のボスも技術やアイテムの有無だけでは倒せず、無線により情報を得た上で、有効な手段を講じなければ太刀打ちできなくなった。かつての同僚との敵対、そして明かされるBIGBOSSの真意……3年の間にユーザーも成長し、緻密な世界観を理解できる高校生以上が増えたことも、評価をさらに高めた一因であろう。

前作で1MbitだったROM容量は4Mbit(512KB、一般的なMSX用フロッピーディスク1枚にも満たない)になり、また前作にはなかった拡張音源SCCの多彩なBGMも加わり、演出の幅も大きく広がっている。MSX2というハードそのものは変わらないが、新型“メタルギア改D”との出会いでは部分的にしか見せず、後を追えない状況にするといったアイデア等、総合的な完成度ではコナミのMSXゲームの最後を飾るにふさわしく最高傑作との呼び声も高い。

↑「バグチェックリストを入手した」一体、何の役に立つのだろう? “2”では謎や演出の幅も広がった。

しかしそれはあくまでMSX界の内部的な評価であり、一般的にはあまり知れ渡ることはなかった。当時は家庭用ゲーム機ですら16ビット化が進行しており、既に8ビット機は過去のものと言われていた。さらに、その数年後にはMSXのハードは製造を終え、ネットオークションなどが一般化するまでは、ゲームソフトの入手さえもほとんど不可能となる時期が訪れるのである。

さて、今だから言えることがある。1998年にプレステで『METAL GEAR SOLID』が発売された当時、MSXはもはや完全に過去の物であり、一般的テレビゲームファンからは省みられることは、ほぼなくなっていた。率直に言えばMSXはゴミ扱いだった(この時期はハード・ソフト共に大量に廃棄され、中古ショップも買い取りを拒否したり嫌がったりした)。そんな状況もあってMSX時代のファンは「メタルギアの最新作とか言っても、ぜんぜん別物なんでしょ」くらいに思っていたのだ。映画で言えば『ナバロンの要塞』と『ナバロンの嵐』くらい、続編なんだけど俳優も雰囲気も違ってる、そんなものを想像していた。

ところが、『メタルギア ソリッド』の説明書にはMSX2版『メタルギア』のことがいきなり書かれている。それだけではない。サイボーグ忍者との最初の戦いを覚えているだろうか? ここでは銃を撃っても通じず、格闘戦を挑まないと先に進めない。その時彼は言うのだ。「思い出さないか?」と。これを聞いた時は耳を疑った。これは、MSX版の“2”をやった人にしか「思い出し」ようがないのだ! ラスト近くの地雷源での殴りあい、その相手を知っているかどうかで『メタルギア ソリッド』に対するこの先の印象はかなり異なる。もちろん、未経験の人にも理解できるようにフォローは入っていた。他にも細かいところにMSX2版の要素が仕込まれており、これまでの2作と密接なストーリー関係になっていることに本当に驚いたものだ。MSX世界では大ヒットでも、絶対的な数で言えば取るに足らないMSX2版との密接な連続性など商売上のメリットは無いに等しいのに!

その後も生みの親である小島監督は度々MSX2版を話題にし、それが後のコナミMSXゲーム全体への再評価という流れを生み、さらに他社のMSXソフトの再評価という潮流までも援護した。『メタルギア』シリーズは、全作品を架空の世界史の中に位置づけ、個々の事件や人の繋がりの物語として描かれている。また、ゲームの製作技術という面でも過去作のノウハウを生かし、アイディアを大切に受け継ぎ、最新の技術と巧みに融合させていっている。人が生み出すのが歴史であり文化であるなら、人の生み出すゲームもまた文化なのだ。ならばゲームもまたバトンを受け渡すように後世に伝えられていくものなのだろう。

プレイヤーは、戦争とは何か、平和とは、そして人とは何なのかという直接的な大テーマはもちろん、『メタルギア』シリーズでの体験を通じて、ゲームとは何か、何が魅力なのかを、世代を越えて伝え残していく、語り部の1人となるだろう。それはコナミのMSXゲーム全体に感じるプレイヤーへの影響力でもある。

小島監督は先人である映画文化が歩んだ道を作品作りを通じて追体験しながら、さらに次世代の映像表現形態たるテレビゲーム文化の開花という大きな成果を生み出した。PS4やXbox ONEという次世代機の登場によって、今度はどんな新しい表現を見せるのだろうか。とても楽しみだ。

ところで、3月20日に発売される最新作『METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES』(PlayStation4 / PlayStation3 / Xbox One / Xbox 360)の主人公“BIGBOSS”はもちろん、“カズヒラ・ミラー”もまたMSX2版の本作が初登場である。ファンの1人として、そんなこんなの万感の思いも抱きつつ、そっと感謝しながら遊ばせて頂くつもりだ。ああ、早く遊びたい。

↑最新作である『METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES』は3月20日発売。

関連サイト:METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES

現行機で『METAL GEAR』、『METAL GEAR2:SOLID SNAKE』を遊ぶなら……『METAL GEAR SOLID HD EDITION』(※METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER HD EDITION内に収録)PlayStation3(パッケージ版)3990円(ダウンロード版)3490円Xbox360(パッケージ版)5480円(ダウンロード版)1900円PlayStationVita(パッケージ版)3540円(ダウンロード版)3540円『METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER HD EDITION』(ダウンロード版)PlayStation31940円PlayStationVita1980円『METAL GEAR SOLID 3 THE LEGACY COLLECTION』PlayStation37980円(価格はすべて税込)

(C)Konami Digital Entertainment

※2014/3/14 15:30 一部誤字等修正しました。ツイッター等でのご指摘ありがとうございました。-----

さーて、今週のおたよりさんは……(コナミのMSXゲーム伝説第3回へのツイートより)

吉田@yo4da さんドラキュラはぴゅう太も持ってた石原くん家で遊んだような

――誰ですか石原くんというツッコミはおいといて、日本語BASICで知られるトミー(現タカラトミー)のぴゅう太にも、コナミの移植ゲームがあって、当時(MSXより前の発売です)はその良いデキに驚きでした。あと、悪魔城ドラキュラは音楽もいいんですよね。やばい、頭の中に曲が流れはじめた。

後野まつり@静岡市在住 @m_atono さん静岡ナショナルショウルームにあったなと思いだした。10倍は無かったが

――ナショナルってあるから国際展示場的なところかと思ったら松下電器のナショナルですか! 今は当然“パナソニック リビング ショウルーム”って名前になっているようです(ググった)。おそらく松下製のMSX『CF-2000』や『FS-A1』のデモ用に展示されていたのでしょうね。

今回の『メタルギア』シリーズについても思い出など、ぜひ“#msx30th”というハッシュタグを付けてつぶやいてください。おもしろい話はまたここで取り上げさせていただくかも…。


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